東京都港区や千代田区など都心の一等地で、販売価格が1億円以上の超高級マンション「億ション」の開発が加速している。都心マンションは価格高騰で供給戸数が伸び悩む一方、億ションの売れ行きは好調で、不動産各社が競うように駅近立地などの再開発を進める。億ションはなぜ売れるのか−。

 東京メトロ六本木駅から徒歩4分。東京ミッドタウンにほど近い閑静な住宅地で、東急不動産ホールディングス(HD)が販売を本格化させるのが超高級マンション「ブランズ六本木ザ・レジデンス」(東京都港区)。地上8階(地下2階)で総戸数は51戸。平均価格は約3億8000万円で、7、8階部分のメゾネットタイプ(313平方メートル)は最高価格15億円に達する。

 強気の価格設定は「この立地で、この広さを確保できる物件はなかなか出ない」(佐藤知之執行役員)といった希少性に加え、部屋数と同じ数の駐車場や大型ルーフバルコニーなどを備えたことも大きな理由だ。7月から東急会員など向けに優先販売を始めたが、駐車場直結の1階住戸は完売。全体でも11月中旬で4割が成約済みだ。「なかなか高級物件に本腰を入れられず、ライバルに後れを取っていたが、ようやくブランド力も上がってきた」。古沢繁之常務は手応えを口にする。

 不動産経済研究所によると、平成29年度上期(4〜9月)の首都圏マンションの平均価格は1戸当たり5992万円とバブル期並みの高値となり、10月も5586万円と高値が続く。東日本大震災や2020年東京五輪・パラリンピック開催による人件費の高騰のほか、地価の急上昇も背景にあるという。一般的なサラリーマンの給与では気軽に手を出しにくい価格となったことで、上期の首都圏マンション契約率は68.6%と好不調の目安とされる70%を割り込み、10月は60.7%と、さらに落ち込んでいる。

 一方で、億ション販売は順調だ。民間調査では、首都圏マンション全体に占める億ションの比率は、17年までは1%に満たなかったが、29年1〜9月は平均5%に達した。背景には、共働き夫婦の増加で1世帯当たりの資金力が上がるとともに、仕事と子育てを両立しやすい「職住近接」が好まれるようになったことがある。加えて、東急によると、約26年ぶりの株高を背景とした富裕層の資産拡大▽世界の主要都市に比べれば、まだ割安感のある首都圏マンションへの外国人投資家の関心−などがあるという。

 ただ、六本木ザ・レジデンスなど超高級マンションは「既に転売や賃貸運営などでは採算が取れない高価格」となっており、バブル期のように投資目的ではなく、地方の会社経営者や医師などの富裕層が自身の別宅として買い増しするケースが多いという。億ション市場がマンション販売で一定のボリュームゾーンを占めるようになった局面変化の中、不動産各社の動きも激しさを増す。

 野村不動産HDは10月、最高14億3000万円の「プラウド六本木」(総戸数35戸)の入居を開始した。三井不動産は東京・南青山で最高15億円のタワー型マンション「パークコート青山ザ・タワー」(総戸数163戸)を30年に完成させる予定だ。東京建物は皇居を臨む千代田区一番町に18階建てのタワーマンションを開発。東急も、都心部の億ションを年間1、2件ずつ手がける計画だ。

 各社はライバルとの差別化に知恵を絞る。東急の幹部は「(高級住宅街の)千代田区番町エリアというだけではなく、『番町の中の何番地』までこだわって希少性を出すほか、エリアをきめ細かく評価しながら用地選定を進める」と打ち明ける。東急は中期経営計画で、29〜32年度に2000億円を投じ、28年度に1560戸だったマンション戸数を1800戸まで高める。億ションを増やすことで、28年度に867戸だった首都圏のマンションは1400戸となる見通しで、都心シフトの加速により、「生き馬の目を抜く」構えだ

 とはいえ、人口減少が本格化する中、首都圏マンションは供給過剰にならないのか。不動産経済研究所の松田忠司主任研究員はこう分析した。「高齢化の中でも、利便性の高い首都圏への流入が続く。今後は用地取得も難しくなるとみられるため、当面は価格も緩やかな上昇傾向をたどるのではないか」
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