量子超越性、米IT大手が一番乗り競う 2017/07/04

「巡回セールスマン問題」など数々の難問を一瞬で解き性能はスーパーコンピュータの9000兆倍に──。
夢の計算機、量子コンピュータの研究が世界で急加速している。
IBMとグーグルなどの米国勢は試作機を公開。欧州連合や中国政府も研究開発に巨額を投じている。

IBMが量子コンピュータの商用化へ本気で取り組み始めた。ジニー・ロメッティCEOは「量子コンピュータなど新技術を提供し、企業の複雑なビジネス課題への取り組みを変革する」とコメントした。
IBMは2016年5月、量子ビット5個からなる量子コンピュータを操作できるクラウドサービス「IBM Quantum Experience」を無償提供して話題を呼んだ。
公開から約1年で100カ国超の4万5000人が使い、約30万回の実験をこなした。

米IT大手が続々と参入
今、IBMに続き量子ゲート方式の研究に乗り出す企業が相次いでいる。ビッグプレイヤーの一社が米グーグルだ。
人工知能(AI)の演算を高速化できるとみて開発を進める。
量子ゲート方式の権威として知られる米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授を研究グループに招き、スパコンの演算能力をはるかに超える量子コンピュータの実現を目指す。

米インテルは2015年9月にオランダの研究グループ「QuTech」に5000万ドル(約55億円)出資し、インテルの半導体微細加工技術を生かした量子コンピュータを開発する。

米マイクロソフトは「トポロジカル物質」と呼ばれる材料をプロセッサに使った量子コンピュータを開発する。
実機に先駆けて2016年3月、動作をシミュレートできるソフト「LIQUi|>(LIQUiD)」を公開した。

目指せ宇宙スケールの超越性

米IT企業が相次ぎ量子ゲート方式の開発競争に乗り出したのは、量子コンピュータでスーパーコンピュータをはるかにしのぐ演算能力を実現できる算段が立ったからだ。

マルティニス教授は2016年6月、分子の性質をシミュレーションする「量子シミュレーション」と呼ぶアルゴリズムであれば、
50量子ビットの量子コンピュータでスパコンの性能をしのぐ「量子の超越性」を実証できると学会で発表している。

スイス連邦工科大学の研究グループはスパコンを使ってシミュレーションをすると、その計算能力は45〜49量子ビットの量子コンピュータと同等だと2017年4月に発表した。
50量子ビットの量子コンピュータが完成すれば、その計算能力はスパコンを上回る。

一方、グーグルの研究チームに参加するマルティニス教授は100量子ビット超の実現を目指す。
IBM Researchの研究グループも2016年8月に100量子ビット機が近い将来に実現するとの論文を発表している。

「近い将来」を5年以内と仮定すれば、2021年までには100量子ビットを実現できる。
計算能力は単純計算でスパコンの9000兆倍。
人間の身長と比較すれば太陽系の半径にも相当し、超越性と言うにふさわしい飛躍だ。
量子の超越性を実証できるメドがたった背景には、技術上のブレークスルーがここ数年で相次いだことがある。
数十年にわたる基礎研究の積み重ねを経て、ようやく量子の超越性に手が届きそうな段階に行き着いた。

量子超越性を達成した量子コンピュータが扱う問題は「人類が初めて計算する問題であり、どんな使い道があるかが見えてくるのはこれから」(西森教授)だ。

IBMが自社の量子コンピュータをクラウドに公開したのも「研究者を増やして産業応用できるアルゴリズムの発明を促す狙いがありそうだ」(中村教授)。

アルゴリズムの発明は「前触れもなく突然に訪れる」。
そう話す東京大学の小芦雅斗教授は、2014年に新たな量子暗号通信のアルゴリズムを発表した張本人。
30年間議論もされなかった通信方法を「偶然見つけた」(小芦教授)という。
新しいアルゴリズムが見つかれば、明日にも量子コンピュータが産業利用できるかもしれない。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/062900267/062900001/