日本で働きながら技術を学ぶ外国人技能実習制度の対象職種に「介護」が新たに加わった。深刻な人手不足が続く介護の現場では期待も大きいが、一方でわが国の移民政策に直結する重大な問題でもある。国民的議論に欠けたまま、この政策を推し進めて本当に大丈夫か?

財務省は先月、医療および介護サービスの公定価格を見直す報酬改定について、いずれも減額を要求した。診療報酬と介護報酬の同時引き下げである。その理由は「介護サービス全体の利益率は、中小企業の平均よりも高く、おおむね良好な経営状況である」というものだった。

 財務省の緊縮財政により、日本の総需要の不足は続き、デフレからの脱却が果たせないでいる。需要が拡大しないデフレ下では、中小企業の利益率は落ちていき、赤字企業が増えていかざるを得ない。介護産業は、平成27年度の介護報酬減額で利益が一気に減ったとはいえ、まだ「プラス」である。だから、さらなる減額、と財務省は言ってきたわけである。

 現在、介護職の有効求人倍率は3倍を超え、産業としては医療や運送を上回り、日本で最も人手不足が深刻化している。理由は、単純に給料が安すぎるためだ。この状況で、さらなる介護報酬削減に踏み切ると、どうなるか。

 高齢化で需要が増え続ける中、介護報酬が削減され、今度こそ介護は「赤字が常態化」する業界になる。そうなると、事業を継続する意味がなくなるため、日本は介護の供給能力が激減し、高齢者が介護サービスを受けられなくなる形の「介護亡国」に至る。

現在、介護福祉士として登録している「日本人」は140万人を超す。それにもかかわらず、従事率は55%前後の横ばいで推移したままだ。本来、介護産業における人手不足は、介護福祉士の資格を持っていながら、業界で働いていない日本人を呼び戻すことで埋めるべきだ。

 とはいえ、そのためには介護報酬を引き上げなければならない。すると、財務省の緊縮財政路線とぶつかる。「財務省主権国家」では、介護報酬の引き上げはできない。むしろ、介護報酬は引き下げられ続ける。すなわち、介護サービスの給料はさらに低下し、日本人が逃げる。

 「ならば、外国人を雇えばいいではないか」ということで、今月から外国人技能実習制度の、介護分野への適用につながったわけだが、そもそも「技能実習生」は外国人労働者ではない。先進国である日本が、アジア諸国から「実習生」を受け入れ、現場で働くことで技能を身に付けてもらう。通常3年、最長5年間の「実習」の終了後は帰国させ、祖国に貢献してもらう。これが技能実習生の考え方だ。

 だが、今回の外国人技能実習制度の介護への適用は、明らかに「人手不足を補うための受け入れ」である。しかも、対人サービスとしては初めての技能実習生受け入れとなる。国民的な議論なしで対人サービス分野において「移民」の大々的な受け入れが始まる。わが国は、恐るべき国である。
http://www.sankei.com/premium/news/171119/prm1711190007-n1.html