低所得者の死亡率は、高所得者の3倍高かった…!

命に関わる衝撃の「格差」について次々と明かすのが、15日に発売される『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』だ。

昨年9月に同タイトルの番組がNHKで放送され、放送後にはツイッター上で「♯健康格差」が一万個以上も呟かれるなど、話題に。同番組の取材班がさらに一年の歳月を費やして、格差と健康の問題を浮き彫りにした本書の一部をここに特別公開。

健康長寿社会を目指し、全国の大学・国立研究所などの研究者が分析を進めている日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study, JAGES)プロジェクトが、65歳以上で要介護認定を受けていない人2万8162人を4年間にわたって追跡調査したところ、その間に死亡した男性高齢者は、高所得の人が11・2%なのに対して、低所得の人はその3倍の34・6%に及んでいるという衝撃的な調査を2008年に発表した。

所得で人の死が左右されるだけではない。住んでいる地域や雇用形態、家族構成の違いで病気になったり、寿命が短くなったりしてしまうという問題が、最近、日本社会で深刻化しつつあることがわかってきた。

たとえば、2014年に東京都が発表した足立区と杉並区の65歳健康寿命(65歳の人が介護を必要とせず、健康で日常生活を支障なく送ることができる平均寿命)を見てみると、杉並区が男性で83・19歳、女性が86・06歳なのに対し、足立区は男性81・44歳、女性84・42歳と、2歳近い差があることがわかった。

さらに全国の健康寿命になると、1位は男女ともに山梨県だが、最下位は男性では徳島県、女性では大阪府となり、その差は3歳以上にもなっている。

また、全日本民主医療機関連合会(民医連)の2014年の調査によると、雇用形態の違いが疾病にも影響することがわかっている。たとえば、非正規雇用の人は正社員よりも、糖尿病の合併症である糖尿病網膜症を悪化させる割合が1・5倍高いというデータがあるのだ。

こうした社会問題は「健康格差」と呼ばれ、いま私たちの身の回りに確実に忍び寄っている。

「健康格差」は、健康に対する自己管理能力の低さが原因ではなく、生まれ育った家庭環境や地域、就いた職業や所得などが原因で生じた病気のリスクや寿命など、私たち個人の健康状態に気づかぬうちに格差が生まれてしまうことを指す。

背景にあるのは、「失われた20年」に代表される日本社会の構造的な変化だ。大きな要因としてあげられるのは、非正規雇用者の増大などの労働環境の激変と、それにともなって生じる収入格差の拡大である。

正規雇用者に比べ、非正規雇用は不安定で賃金も著しく低い。たとえば、毎月勤労統計調査によると、一般労働者の給与が34・3万円であるのに対してパートタイム労働者は9・5万円と3分の1にも満たない。賞与もなければ、賃金のベースアップもない。

こうした雇用格差によってジリジリと生じてくる所得格差が、日々の生活レベルや子どもの教育環境などの格差に連鎖し、健康も脅かしつつある。

地域によっても「健康格差」が…

「健康格差」は、何も特定の人に限った問題ではない。現役、子ども、高齢者、すべての世代で深刻化している。まず現役世代では、非正規雇用者の間で、糖尿病の問題が深刻化している。正社員との比較では、糖尿病合併症リスクは5割増にもなるという調査結果もある。

また、子どもたちの間では、貧困家庭を中心に肥満が広がっている。健康を維持するためにはバランスのとれた食生活を送ることが必要だが、家計に余裕のない家庭では、単価の高い野菜や果物などを購入できずに、比較的安い炭水化物を過多に摂取することが多い。そのため、給食がなくなる夏休みなどに食生活が乱れて、休み中に肥満化する子どもが増えているという。

そして高齢者でも、「下流老人」と言われる低所得の人ほど、お金がないため医療機関の受診を控えており、その結果は健康状態に如実に表れていることがわかっている。

「健康格差」研究の第一人者である国立長寿医療研究センター部長で千葉大学の近藤克則教授の研究によれば、具合が悪いのに医療機関の受診を控えたことがあると答えた高齢者は、年収300万円以上の人が9・3%なのに対して、年収150万円未満の人は13・3%。その理由として、年収300万円以上の人は「待ち時間」をあげた人が最も多かったが、年収150万円未満の人は「費用」をあげる人が最も多くなっていた。

さらに、住む地域によっても「健康格差」があることがわかってきた。それが「がん」へのかかりやすさだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53460