かつら最大手のアデランスは20日、かつて本社を置いていた東京・新宿のビルにグローバル旗艦店を設け、22日オープンすると発表した。米投資ファンドのスティール・パートナーズと経営権を巡り争った一環で立ち退きを余儀なくされていた。2017年2月のMBO(経営陣が参加する買収)を経て経営権を取り戻し、因縁の場所に戻ってきた形だが、低価格をうたう競合の追い上げは激しい。訪日客で沸く新宿の一等地で起死回生を図れるか、正念場を迎えている。

「ここは伊勢丹新宿店のはす向かい。目の前には『ルイ・ヴィトン』。まさにグローバル旗艦店としてふさわしい場所だ」。オープン記念イベントに登壇した津村佳宏社長は誇らしげに語った。

 新しい店は空室だった本社ビルを改装してオープンする。3〜5階に「アデランス」や女性向け「レディスアデランス」の本店が入る。育毛・増毛に特化した男性向けの新業態「ヘアリプロ」も開く予定だ。専門資格を持つスタッフを配置し、かつらのオーダーメードだけでなく、自分の髪を生かした増毛や、育毛サービスも提供する。

 2階には店舗とは別にかつらを展示するショールームとイベントスペースを開設。6階以上は本社オフィスが入居する。

 「やっと戻ってこれた」

 イベント終了後、津村社長はエレベーターの中でつぶやいた。津村社長がこのビルから立ち退きを余儀なくされたのは10年。09年にスティールがアデランス株の約30%を保有し、経営陣が変わった。大阪や米ニューヨークに所有していた自社ビルを次々に売却するなか、新宿の自社ビルも売却対象に。オフィスや店舗は近隣のビルに移転してビルは売却を待つばかりになった。

 だが、津村社長(当時は執行役員)は「魂を売るようなものだ」として売却に反対の姿勢を崩さなかった。店長や部長たちは本社ビル内の研修施設で学び巣立ってきた。「社員にとって心理的なダメージが大きい」。17年2月、投資会社インテグラルの支援でMBOを成立させた津村社長が再生の象徴として、売却を免れた同ビルへ再結集の号令をかけた。

 ただ、アデランスを取り巻く環境は決して明るくはない。矢野経済研究所によると「毛髪業」の16年度の市場規模は前年度比2.4%減の1369億円。販売価格が下落したことが要因だ。

 低価格をうたう同業との競争が激しくなり、高級かつらの分が悪い。17年2月期の最終損失は25億円で2期連続の赤字となった。今期業績は非開示。「回復基調にある」(同社)とするが、黒字基調に戻るまでの道のりは厳しそうだ。

 アデランスは手厚い接客と技術力をうたい、他社との違いを打ち出す考えだ。創業50周年の節目を前に、新店が業績反転への一矢となるか、対応力が問われている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23689040Q7A121C1000000/