カンボジアの経済成長が著しい。首都プノンペンでは、月収1000ドル(約11万円)に達するサラリーマンも増えている。国外企業の参入も進んでいるが、その中で日本企業は中国・韓国系企業に大幅に後れを取っているという。日本企業について、カンボジアのビジネスパーソンたちは「リスクを取りたがらない“大企業病”」と口を揃える。日本企業のマズい現状とは――。


中略
「親日国」でも「ビジネスは別」
では、そんな発展著しいカンボジアで、日本企業はどのような状況にあるのだろうか。

日本政府はPKOやODAなどにより、内戦で荒廃したカンボジアの復興を支える事業に尽力してきた。現在でも、プノンペン内の交通用信号設置など、インフラ整備に大きな役割を果たしている。前出のように、プノンペンが「唯一、東南アジアで水道水が飲める街」になった背景にも、実は日本の自治体・北九州市の技術支援およびビジネスベースの交流がある。

そのため日本では、カンボジアは熱烈な「新日国」であるというイメージが根強い。実際、カンボジアの通貨のひとつである500リエルには、日本の国旗が描かれているし、現地で話を聞いてみても、多くのカンボジア人にとって「日本の印象はとても良い」という話ばかりだった。そうなると、当然、民間のビジネスにおいても優位にあると考えたくなるが……日系不動産企業に勤めるA氏は、その実情をため息まじりに話す。

「カンボジアは確かに親日国です。しかし、現地ビジネスで日本企業が勝っているかというと必ずしもそうではありません。特に大型の不動産開発案件では、中国・韓国など外国勢に後れを取っている。その象徴的な例が、イオン2号店の受注です」

「イオンモールプノンペン」が正式にオープンしたのは、14年6月30日。開業1年間で同モールを訪れた人々の数は、当初の予想を大幅に上回る1500万人超となった。1500万人と言えば、カンボジア全体の人口に迫る膨大な数だ。カンボジアの不動産開発案件で唯一無二の大成功を収めたイオンモールプノンペンを受注したのは、韓国のGS建設だった。そして現在、「2号店」の建設が同じプノンペン内で進められている。受注したのは、韓国のヒュンダイエンジニアリングだ。

「今回、日本企業が提示した受注額は、韓国ヒュンダイが提示した金額を下回っていたそうです。しかもクライアントは日本企業のイオン。それなのに、最終的に受注できませんでした。真実は不明ですが、何かしらの『政治的要因』が働いたというのが、関係者たちのなかで大筋の見立てとなっています」(前出の日経不動産企業勤務A氏)

「荒っぽい」ことをしない/できない日本企業
A氏によれば、イオン2号店のように、大型の不動産開発案件を他国企業に取られてしまう事例は決して少なくないという。カンボジアに限った話ではなく、JICA主導のODA案件でさえ、日本企業が受注できないという状況がそこかしこにあるそうだ。

「統計を見ると、カンボジアへの直接投資の量は中国が圧倒的に多い。次いで、韓国、マレーシア、英国、ベトナム、米国、日本と続いています。とはいえ、日本企業がカンボジア現地で勝てない理由は、そのようなマクロな要因だけではありません。中国や韓国企業は賄賂や接待などを駆使して、手段を選ばず仕事を取りに来る。例えば、政府高官に高級車を贈る、海外に連れていって接待する、といった話は珍しくありません。彼らにとっては結果がすべてなんです。一方、日本企業は、そうした荒っぽいことはあまりしません。結果、政界に太いパイプを作ったり、現地の細かい情報を集めたりすることができず、競争に負けてしまう」(前出、A氏)

一方、カンボジアに進出している韓国系物流企業と親交の深い、日系大手企業の関係者S氏は、日本企業の内部状況について次のように指摘する。

「特に日本の大企業では、賄賂や過度な接待など現地のグレーな商習慣を避ける傾向が顕著です。表向きには『コンプライアンスの遵守』や『クリーンな仕事をしたい』という企業全体の方針ですが、実際には言い訳ですよ。つまり現場の人間たちは、時間や予算をかけるなど、自分が深くコミットしたプロジェクトが失敗するのを怖がっている。個人として責任を取りたくないんです。しかも日本の企業は、成功した際の個人の評価も曖昧。そんな“大企業病”が、カンボジアでも見え隠れしています」
以下ソース
http://president.jp/articles/-/23548?page=3