先日、以前コンサルティングを行った店舗の視察のため中国の北京・上海を訪れる機会があった。その際に驚いたのが支払い時にスマートフォンを機械にかざして決済を完了させる人の多さである。スーパーやコンビニはもちろん、個人店や屋台、市場に至るまでスマホ1つで決済が完了し、街中のカフェなどでは現金お断りの店があるほどだった。

 日本は現金大国

 今、日常生活に現金を必要としないキャッシュレス社会が世界的に進展している。いち早くキャッシュレス社会を実現した先進国は北欧で、スウェーデン、ノルウェー、デンマークはいずれも国内総生産(GDP)に対する現金の使用比率が5%を下回る。

 中でもスウェーデンに至っては現金使用率が2%。つまりキャッシュレス率が98%で、決済現場で現金はほとんど使われないのだ。

 それに比べて日本は今もなお現金大国である。日本銀行が2017年に発表したデータではお札と小銭を合わせた現金流通高の名目GDP比は15年末時点で19.4%で、ユーロ圏10.6%、米国7.9%、英国3.7%と比べ突出して大きい。

 モバイル決済の利用率に関しては同じく中国の利用率が98.3%に対し日本はわずか6%という結果になった。つい先日も中国のとあるメディアでは日本では現在、取引の70%が現金取引で、先進諸国の水準(約30%)を大きく上回っていると報道されたばかりだ。

10年前より携帯での決済方法を確立させ、かつては世界でもっともモバイル決済が進んだ国といわれていた日本だが、現在まで普及に至らなかった理由としては現金が安全であるまれな国であるということが挙げられる。

 無人の野菜売り場が海外で話題になったことも記憶に新しい。中国では偽札の横行が社会問題化されており、米国や欧州がカード大国になったのも利便性の面も少なからずあるだろうが、最大の理由は現金を持ち歩いていると危ないからである。

 しかし20年に開催される東京オリンピックの期間には海外から大量に訪れる外国人であふれかえるだろう。そうなれば外貨を両替したり、ATMから日本円を引き出したりする手間がかかり、日本人が負担するであろうコストも膨大な額になるはずだ。

 私たちサービス業から見てもキャッシュレス化は非常にメリットがあると感じる。オンラインで決済が完了すれば現金の誤差は発生せず、複数のスタッフで現金を何度も数え直す手間も省かれるのである。毎日のように入金のため銀行へ足を運ぶこともなくなり両替の準備、現金盗難の心配もなくなる。結果的にコスト削減につながり、効率化が予想される。

さらには昨今叫ばれているインバウンド集客に向けても、もはやキャッシュレス化が必須となっているのを肌で感じている。弊社の来客の3割がインバウンドという銀座の店舗で実際に業務提携しているアプリ「日本美食」に中国のネット通販最大手アリババグループの電子決済サービス、アリペイなどの支払いを導入したところ、モバイル決済の使用率はこの4カ月で20倍になり、中国人の9割がモバイル決済を使用している結果となった。

 つい先日の中国の祝日、国慶節に至っては7日間で150組ほどの中国人が来客し、そのほとんどがモバイル決済を使用している。

 キャッシュレス化の遅れは、キャッシュレス社会の国際的なインフラ競争に遅れることにもつながる。政府も20年に向けたキャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上を掲げている。私たち企業側もキャッシュレス化への対応を迫られる日もそう遠い未来ではないだろう。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/171102/ecc1711020500002-n1.htm