米東部時間の10月13日、ワシントンDCで2日間にわたって開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が閉幕した。外電によると、中心になったテーマは、リーマンショック以降続けられてきた欧米の金融緩和の縮小の影響だ。

閉幕後の記者会見では、日銀の黒田東彦総裁が「特に新興国に対する国際金融上の影響がないかどうか、十分注視していかないといけない」と警鐘を鳴らしたという。

しかし、注視しなければならないのは、本当に新興国だろうか。われわれ日本人にとって、日本国債の利払い費の急膨張こそ、より直接的で大きなリスクのはずである。

足もとの世界経済は、好調ムードが蔓延している。国際通貨基金(IMF)は10月10日、世界経済見通しを改定し、2017年の成長率を7月の予測より0.1ポイント高い3.6%に上方修正。世界経済が昨年(3.2%)を上回る成長軌道に乗ると予測した。こうしたムードを反映して、日本の株式市場も先週末の日経平均株価が終値で約21年ぶりに2万1000円台に乗せる活況を呈している。

日本への「警戒」をはぐらかした

そうしたなかで、“好事魔多し”の要素がないか点検しておこうというスタンスを採ったのが、今回のG20だ。

最も大きなリスクとして注目を集めたのは、アメリカが来年にかけて1%程度政策金利を引き上げていくとみられていることだ。米景気は好調なので、金融政策の正常化は必然だが、そうなればドル高も同時並行的に起こり、新興国に向かっていた投融資資金が米国に還流して新興国が資金不足に陥る懸念が出てくる。

1997年に米系ヘッジファンドのタイ・バーツ売りに端を発し、韓国が国際通貨基金(IMF)の管理下に入った「アジア通貨危機」のような事態が、再び起きても不思議はない。

実際、G20閉幕後の会見で、議長国ドイツのワイトマン独連邦銀行総裁が「世界経済の回復はより強固になり、この1年で均衡のとれた成長が進んだ」と自信を見せたものの、同じドイツのショイブレ財務相が「慢心は誤りだ」と諫め、こういうときこそ各国が政府債務の削減や構造改革に努めるようクギを刺したという。

これに対し、朝日新聞デジタルによると、黒田総裁は、安倍晋三首相が表明した基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化する目標の先送りを説明した。この目標は2010年6月のG20(トロント)で、当時の菅直人首相が国際公約したものだ。今回は黒字化をめざす方針自体は堅持すると各国の理解を求め、「強い異論はなかった」という。

今年7月、IMFが日本に関する年次報告書で、信用できる財政の計画が必要だとして、消費税率を年0.5%から1%幅ずつ緩やかに上げるよう助言していることもあり、日本が世界経済のリスクだと集中砲火を浴びる前に防戦に回り、火消しに努めたらしい。

冒頭で書いたように、閉幕後の記者会見で黒田総裁は、「経済、物価の状況が違えば、政策が違うのは非常に自然なこと。わが国の金融政策について、批判めいたことはまったくなかった」と強調した。その一方で、冒頭で記したように、あえて新興国をリスクと言い放っている。

諸外国の警戒の視線が日本の財政に向かないように仕向けた――。そう勘ぐられても仕方のない言い回しだった。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53221