保健事業をどのように評価するべきなのか――。「デジタルヘルスDAYS 2017」(主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)の初日カンファレンスに登壇したミリマン ディレクターの岩崎宏介氏は、保健事業の評価に対する具体的な数値化プロセスの一端を解説した。

 ミリマンは1947年に米国シアトルで産声をあげた保険コンサルティング企業で、アクチュアリーに強みがある。アクチュアリーとは、確率論や統計学などを用いてリスクや不確実性の分析を行う保険数理の専門職のことだ。

岩崎氏はまず、「最も大事な論点は、保健事業を投資と見た場合にペイするのかどうか」と切り出した。「誰のキャッシュフローに影響するか、合計で利益は予測できるか、利益をどのように分配するのか、そしてリスクをどのように分配するのか」と、1つの保健事業にまつわる課題を列挙した。その上で、いくつかの保健事業が組み合わさる場合は保健事業間のシナジーを考慮する必要があると指摘。全体の費用対効果を最大化するような保健事業を構築していくべきだと語った。

 今回の講演で軸となったのが、特定健診(メタボ健診)受診勧奨事業の例だ。岩崎氏は同社が医療技術評価の国際学会「HTAi 2017」に提出したポスターを示しながら、「我々の研究では、特定健診を受診していない人が受診すれば医療費は30%安くなるとの結果を得た」(岩崎氏)と話し、特定健診受診の効果があることを示した。この研究は医療データ分析に定評のある日本医療データセンターと共同で行ったものである。研究は人数と年齢の単純な比較だけではなく、多変数の比較、経時的な比較と3つの側面から行い、効果の精度を高めた。それらの結果すべてから30%の医療費削減効果が見込まれたという。

 これをもとに保健事業を展開するとした場合、1回の受診勧奨の効果が毎年80%減少したと仮定すると、将来の医療費削減額の現価は医療費の37%と算出。この数値を基準にした国民健康保険(国保)に与える価値として岩崎氏は「受診者1人あたり50万円」と述べた。また、国保以外では民間保険会社における民間医療保険のマージン増加額が6万円、製薬会社の利益増加額が4万円になると予測。これらをあわせると受診者1人あたりの利益は60万円になるとした。

そのほか岩崎氏は、国保と保険会社、製薬会社が特定健診受診勧奨事業のコンソーシアムを形成し、未受診者に対して受診勧奨を行ったとする例について言及。この例でもROI(投資利益率)が少なくとも200%を超えるのではないかと予測した。

 事業を展開する際のリスク分配については、民間保険会社、製薬会社など保健事業によって何らかの利益を得るプレイヤーを集めて「利益を推定しながらリスクを分配していく」(岩崎氏)とする。最後に米国の糖尿病予防アプリの例を紹介しながら、「糖尿病の自己管理といった保健事業が糖尿病のみならず、高血圧症やコレステロール抑制などにも効果的」と話し、改めて1つの保健事業がもたらす別の保健事業とのシナジーを強調した。
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