「仮想通貨」の是非について、各国で様々な議論が巻き起こっている。

仮想通貨とは円やドルといった法定通貨とは異なり、実物を持たずネット上で取り引きされるもので、国家による価値保証はない。ところがエストニアが独自の仮想通貨「エストコイン」の導入を検討していると発表し、国公認での仮想通貨の普及が現実味を帯びてきた。

中国では、現在世界で最も流通している仮想通貨「ビットコイン」を規制し、代わりに国公認の仮想通貨を導入するのではないかと見られている。もはや、政府が仮想通貨の存在を無視できない世の中になってきているということだ。

では日本はどうかというと、金融庁は民間の仮想通貨の存在に対して、容認すべきか規制すべきか態度を決めかねているようだ。また、日本政府が公認の仮想通貨の発行を検討しているという話も聞こえてこない。

仮想通貨における各国の取り組みとしては、次の4タイプがある。(1)政府の発行に熱心、民間の発行も自由、(2)政府の発行に熱心、民間の発行は規制、(3)政府の発行に無関心、民間の発行は自由、(4)政府の発行に無関心、民間の発行は規制、といった具合だ。エストニアは(1)タイプ、中国は(2)タイプ、日本は(3)と(4)のどちらかというところだ。

エストニアは、バルト三国最北の国で、人口は奈良県ほど。インターネット通話アプリ「スカイプ」を生んだ国としても知られる。ソ連崩壊にともなって独立を回復し、'04年にEU(欧州連合)に加盟、'11年に通貨・ユーロを導入した。

規制緩和で恩を売りたいから…

政府が独自仮想通貨を発行するには理由がある。ユーロを貨幣とする欧州諸国の場合、紙幣は欧州中央銀行が、少額コインは各国が発行している。したがって、紙幣に関する通貨発行益は欧州中央銀行に帰属し、各国財政が直接的に潤うわけではない。

そのため少額コインによる通貨発行益よりも、仮想通貨によって大きな利益を得たほうがいいのではないか、と考える国も出てくるのだ。

では中国はどうだろうか。中国では、他国に比べ私有財産に関する制限が大きく、生産手段としても国営企業が圧倒的に強い。このような社会状況では、厳しい取引規制が行われることになる。

もちろん資本取引の要となる金融規制も厳格にならざるを得ず、国内外のカネの動きが不透明になる民間の仮想通貨に対して政府は真っ向から対立することになる。おそらく中国政府は、民間発行の仮想通貨を抑えた上で、政府発行の仮想通貨を徐々に進めていくだろう。

一方、霞が関の人間はこうした新技術に疎いので、もし中国が民間の仮想通貨に対する規制を強めていけば「前にならえ」で同様の規制に走るだろう。しかし、これは一党独裁の中国とは理由が少し異なる。

日本の場合、仮想通貨が儲かることを知っている民間の金融機関が、いずれ規制緩和を要求してくる。あらかじめ規制しておけば、緩和したときに恩が売れると官僚は踏んでいるのだ。

通貨が電子化されれば、それだけで発行コストは大幅に減り、金融機関の処理を待たなくても24時間取引ができるようになる。公認の仮想通貨はメリットもあるのだが、そうした点を活かせないのが霞が関官僚の限界だ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52987