日中ビジネスの最前線で、多くの企業同士の交流を見てきた。その経験から言えば、日本企業の問題点は「スピードのなさ」と「担当者の事なかれ主義」だ。一方、中国企業の問題点は「信用のなさ」だと言えよう。顧問先の企業に対しても、中国への投資は「本当に信頼できる企業や、人間に出会えるまで慎重に進めようと」口を酸っぱくして説教している。

 私が顧問を務めているIT企業は、かなり早い段階でECビジネスに関心を持ち、インターネット上に専用のプラットフォームまで構築。その甲斐あって、さまざまな会社から興味を示され、「これでビジネスがうまくいった」と喜んでいた。ところが、当時、中国ではまだクレジットカードが普及しておらず、「国境を越えての代金の支払い」という大きな壁にぶつかってしまい、その挑戦はやむなく失敗に終わった。

 2003年、馬雲氏が率いるオンラインマーケットのプラットフォーム「阿里巴巴集団(アリババ)」が意気込んで設立したショッピングのウェブサイト「淘宝網(タオバオワン)」も当初、この支払い問題に悩まされていた。

 というのも、顧客が代金の「先支払い」を嫌がったからだ。万が一、品質の悪い商品だったら、あるいは商品が送られてこなかったらといったことを心配していたのだ。対する商品提供側も、顧客に代金を支払ってもらえないのではと心配していた。

 クレジットカードが普及する前の中国社会には、消費者とメーカーとの間にこのような「信頼問題」が存在していた。しかし、アリババが非接触型決済サービス「支付宝(アリペイ)」を展開し始めて以降、ややこしい問題は一気に解消した。

その後、中国ではアリペイや「微信支付(WeChatペイメント)」を中心に、モバイル決済が爆発的に普及。中国の一部の都市では、“キャッシュレスの町”を実現するため、もっぱらモバイル決済に特化した「無人コンビニ」まで登場しているほどだ。

信用ポイントの獲得数に応じ
多様なサービスを提供

 一向にモバイル決済が普及しない日本を尻目に、中国ではさまざまな新サービスが登場している。

 その一つが、アリペイと、アリババが新しく設立した「芝麻(ゴマ)信用」とが進めている信用情報の管理システムだ。

 これは、芝麻信用が、ビックデータなど最新のテクノロジーを使って個人の信用情報を収集、それを解析して個人の信用度を判断し、それに応じたポイントが付与されるというものだ。

 この「ポイント」が非常に興味深い。550ポイント以上獲得したユーザーは、その獲得ポイントに応じて多様なサービスを受けることができるからだ。その中身について中国メディアがいろいろと報道しているが、その一部を紹介しよう。

(1)旅行宿泊サービス
 ホテルに宿泊する際のデポジット(保証金)が不要になるほか、宿泊費も後払いすることが可能となる。また、チェックアウト時の部屋のチェックが免除され、行列に並ばずチェックアウトすることも可能となる。つまり、信用情報の良好な顧客だけが、極めてスムーズに宿泊することができるというわけだ。

(2)ビザサービス
 700ポイント以上獲得した顧客は、外国旅行用のビザを申請する際、信用情報が良好と判断されて提出書類が少なくて済み、費用も大きく割り引かれる。

(3)お出かけサービス
 車をレンタルする際、通常2000〜3000元(1元は約16円)かかるデポジットが不要となる。

(4)病院サービス
 650ポイント以上の顧客は、病院で診察を終えたら、その場で診察料金を支払わなくてもすぐ病院を出ることができる。いわば「料金後払いサービス」で、支払い時に並ぶ手間を省くことができる。

(5)分割払い
 アリババ系の消費者金融を利用する際、無利息の期間が最長55日になる。分割払いした場合の利率もクレジットカードより低いほか、時々行われる「無利息分割払いキャンペーン」の適用が認められる。

(6)キャッシング
 キャッシングサービスを利用する際、通常、口座開設に600ポイント以上の所持者であることが必要で、限度額は最高30万元(約480万円)となっているが、ポイントが高いほど限度額が上がり、利率は低くなる。

 このほか、芝麻ポイントは自転車シェアリングサービスでも利用されており、600ポイント以上の所持者なら、QRコードをスキャンしてすぐに自転車を利用することができる。

 このように、ポイントを利用できるシチュエーションを増やし、利便性を増すことで、ユーザーからの評価も上がるという“好循環”を生み出している。その結果、今では「銀行のリスクマネジメントモデルよりはるかに優れたシステム」との評価も受けているのだ。
以下ソース
http://diamond.jp/articles/-/137539