http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS12H6E_S7A610C1EE8000/

2017/6/12 17:30

 財務省は12日、円とアジア通貨の利用拡大に向けた包括策を公表した。円とアジア通貨を直接交換する市場をつくり、円の決済網をアジアに広げる構想だ。ドルを介さない取引を増やし、現地に進出する日本企業などが割安に資金調達できるようにする。中国人民元の国際化が遅れるなか、日本が脱ドル依存の流れを後押ししてアジアで存在感を高める狙いもある。

 財務省は円とアジア通貨の直接交換市場の創設に向け、まずタイと協議に入る。日本とタイの貿易決済では両国通貨の割合は48%とドル(51%)と同水準。日本側は直接交換を広げる余地があるとみている。

 最大の課題はバーツを買いたい時に売り手を迅速に見つける流動性をいかに高めていくかだ。売買がすぐに成立しないと、その間に相場が変わり損失を被るリスクが高まる。流動性が低い通貨ほど保有リスクが大きく為替手数料も高くなる。

 財務省は東京市場でのアジア通貨建て債券発行なども包括策に盛り込み、流動性向上につなげる。東京市場でバーツを調達できれば円との取引も増えやすくなる。タイは海外でのバーツ保有を最大3億バーツ(約10億円)としており日本側は上限規制の緩和を求める。

 財務省は国内に限っている全国銀行協会の円決済システムをアジアに展開する邦銀に開放する検討を促す。開放すれば円の送金が早くなる。

 米国が利上げ局面に入ったことを受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国はドル依存からの脱却を目指している。米利上げでアジア通貨が下落すれば、ドル建て債務が膨らみやすくなるためだ。インドネシアやマレーシアは2015年以降、国内決済で自国通貨の利用を義務化。ベトナムは同年にドル預金金利をゼロに引き下げて自国通貨の利用を促す。

 1997年のアジア通貨危機ではタイから米国に短期資金が急激に流出してバーツが暴落。タイの企業や金融機関がドル建て債務の返済が難しくなりアジア全体が深刻な景気後退に陥った。

 日本政府は1980年代に円の国際化を目指す方針を打ち出したが決済取引に占める割合は3%にとどまる。4割を超えるドルには遠く及ばない。今回は円に加えてアジア通貨の利用拡大を打ち出し、これまでとの違いを鮮明にする。

 中国は韓国やマレーシアと通貨の直接交換を実施している。だが人民元を2015年8月に切り下げて以降、極端な人民元安を防ぐため資本規制を実施。17年5月末には相場の算出方法を変えて「管理相場」の様相を強める。自由な取引が難しくなるほど、脱ドル依存を目指すASEANのニーズを満たしにくくなる可能性がある。