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■自分だけ逃げたプロ経営者

突如現れたプロ経営者の改革に、元からいた社員の多くは置いてけぼりになった。武田國男元会長の「日本の良さを残す」という意思が抜け落ちてしまっていたのだ。
時価総額でいえば、シャイアーと武田の開きは1兆円超。いわば「小が大を飲む」買収劇で、有利子負債は5兆4000億円にも積み上がった。'08年まで無借金経営を続けてきた「超優良企業」は、ものの10年で借金だらけのリスク経営へと姿を変えたわけだ。
事業拡大や多額の買収で、経営陣や株主がリスクを背負うのは当然。だがいちばん頭を抱えているのは、身を粉にして働いてきた武田のプロパー社員たちだろう。
新経営者のグローバル志向により、彼らの職場は180度変わった。オフィスでは英語必須、手が届きそうなポストは、中途採用の外国人が次から次へと押さえていく。
武田薬品中堅幹部は苦しい胸の内を明かす。
「会議は基本的に英語ですが、これは役員が英語しか話せないからです。どんどん外国人社員は増えていますし、日本人の中途採用も海外駐在経験者や外資系出身者ばかりです。どれだけ優秀でも、英語ができなければ社内で会話すらできない。
上司と社員とのコミュニケーションが取れているとはいえません。シャイアーの買収は、一部の幹部以外にはまったく知らされていませんでした。これだけ大きな買収話にもかかわらずですよ」
ウェバー氏の年俸は12億1700万円。側近の外国人取締役もヒラ社員とは比較にならないほどの高給取りである。それだけのカネをもらっていながら、'15年にはCFOのフランソワ・ロジェ氏が就任後、わずか2年でネスレに移籍した。
M&Aが相次いで失敗し、具合が悪くなったのだろう。条件次第ですぐ他社になびく幹部がゴロゴロいるわけだ。

■社員が消えて会社が残る

新経営陣がグローバル化とともに推し進めているのが、徹底した人員削減だ。
神奈川県藤沢市には、'06年に1470億円を投じ、「東洋一」を称していた湘南研究所がある。建設の際、創業の地である関西を離れ、東京ありきで事業拡大を進めているとの批判を押し切った。
だが、そんな湘南研究所にもかつての活気はない。早期退職で優秀な研究者が流出し、人数も3分の1に削減された。空いたスペースには現在、24の企業と研究所が入居している。
トップシークレット中のトップシークレットである研究拠点を他社に貸し出すなど、現場の研究者にとっては考えられないことだ。
「研究者にしてもMR(医療情報担当者)にしても、信頼されるためには他社を上回る知識と士気が必要です。でも、今の武田にはそれを維持するモチベーションがない。優秀な若手はいても、どこかシラけちゃったところがある。
『外国人じゃないと出世できない』とか、『どうせウチは、外資の日本法人みたいなもんですから』なんて、酒の席で冗談めかして言うんです」(武田薬品社員)

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