http://j.sankeibiz.jp/article/id=1434

実は、私自身、この本を書き始めるまで、なぜ日本が世界第3位の経済大国なのかを十分に説明しきれていませんでした。
大学で日本の経済を勉強し、その後、ゴールドマンサックス証券で7年も働いていたにもかかわらずです。
日本の産業をよくよくみてみると、農業も含めてそうなのですが、なぜ産業として成り立っているのか不思議なものもあります。
トヨタ自動車はすごい企業ですが、世界を席巻するようなとんでもない技術を持っているわけではありません。
何でこうなったのか不思議に思っていました。

今回の本を執筆するにあたって、改めて日本を分析して、日本の高度成長の要因が、すべてとはいいませんが、かなりの部分、急激な人口の増加にあったことが分かってきました。
日本は世界3位の経済大国ですが、一人当たりのGDP(国内総生産)をみると、20〜30位をうろうろしています。
一人当たりの生産性は低いのですが、その分を人口増でカバーしていたわけです。
人口の激増は過剰な競争社会を形作ります。
また、特に日本のような男性社会はなおさら競争になります。
その原動力が日本を発展させていったんです。
でも、日本は経済大国のようにもみえますが、生産性は低い国なんです。

人口が増加している段階では、成長が可能でしたが、今の少子化の中では競争も生まれない。
そうなると、イノベーション(技術革新)も生まれない。
それなのに、みんな人口が増えていた時の社会のままの過去の妄想を抱いたまま人口減少社会を迎えているのです。
そんな妄想を抱えたままなので、外国人就労や移民の問題などの議論が全く進まない。
日本人は要するに過去に生きているんですよ。
ここで妄想を捨てて、現実をみないと、もうどうにもなりません。

でも、私が「高度成長は全て人口激増が可能にした妄想だ」なんて言うと、すごい攻撃がきますよ。
「会議が長い」「書類にハンコをもらうのがたくさんあるからだ」「残業が多い」「規制が多い」「世界最高の商品を作っているのに日本は過当競争だから値段が取れない」といった声もあります。
しかし、会議やハンコ、霞が関がああだ、こうだ、と言うのは事実としては事実なんですが、根拠がないわけですよ。

そもそも日本の子供の6人に1人が貧困し、国の財政が破綻寸前だとか、社会保障制度もこのままだと破綻してしまう状況にあります。
だからこそ生産性を上げなくてはならないんです。
この問題を放置することは、極論ですが、手術すればあと10年生きていける親を手術せずに死なせることと同じです。
それくらいひどいことをしているという認識が日本人にないのは残念です。