485のつづき

■日産マーチ(日本を見限った瞬間:4代目/2010年発売)
 1992年に発売された2代目マーチは、世界で最高水準の取りまわし性を誇った。全長は3695mm、全幅も1585mmだから小回り性能が優れ、ボンネットも良く見える。サイドウインドーの下端を低く抑えた水平
基調のボディは、視界が抜群に良い。安全の第一歩は車両の周囲に潜む危険の早期発見だから、2代目マーチは衝突性能とは違う意味で優れた安全ボディを備えていた。
 しかも外観が柔和で上質感も伴う。この安全性、取りまわし性、見栄えの両立は、工業デザインの真髄であった。これに比べると昨今の後方がロクに見えない外観は、第一に危険であり、デザインの力量も大幅に
劣る。今の開発者やデザイナーには「2代目マーチを改めて見直せ!」と言いたい。
 この優れたマーチが、フルモデルチェンジの度に衰えていった。2002年に発売された3代目は、デザインは2代目の流れを受けて相応に良かったが「Bプラットフォーム」にはコストダウンの悪影響が感じられた。
 乗り心地は柔軟でも、後輪の接地性が劣悪で走行安定性に不満が伴う。同じプラットフォームを使う2代目キューブが発売されると、その処方に沿って大幅なランニングチェンジ(報道発表をせずに改良をするこ
と)を実施したが、後輪の接地性を高めた代わりに乗り心地に突っ張り感が生じた。デザインや取りまわし性は悪くなかったが、運転するとその後のマーチが危ぶまれた。
 悪い予感が的中したのは、2010年に発売された4代目の現行型だ。「タイ生産になった」という言い訳はともかく、単純にデザインから乗り心地まで質が低い。しかも2/3代目に比べると視界も少し悪化した。緊
急自動ブレーキを作動できる安全装備も付かず、日本を見限ったというよりも、選ぶ価値を根本的に失っている。