韓国大使などを務めた武藤正敏氏の著書、「韓国人に生まれなくてよかった なぜ今文在寅なのか!開いた口がふさがらない」(悟空出版 http://www.goku-books.jp/ )をめぐり、韓国メディアが「韓国と韓国人に泥をぬった」(中央日報)と怒りを爆発させている。

 韓国の最大の理解者と思われていた人物からの批判がショックだったことは想像に難くないが、著作内容の大半は北朝鮮への急接近を見せる文在寅(ムン・ジェイン)政権の危うさについて割かれており、韓国社会を揶揄(やゆ)するものではない。

 著書への問答無用の拒否反応には、「大使だったら赴任した国をかばうべき」(同)との独特の甘えも見え隠れする。

■「衝撃の書」

 武藤大使の著書に正面からかみついたのは、韓国紙の中央日報(日本語電子版)。

 「ある知韓派日本外交官の背信」と題した記事で、韓国滞在歴が12年に及ぶなど武藤氏が、「韓国と深い縁を結んだ」外交官であることを紹介しながら、「第2の故郷ともいえる国とその国民をひとまとめにして侮辱するのは外交官としてありえない」というのだ。

 著書のタイトルは確かに刺激的だが、武藤氏はオンラインメディア、ダイヤモンド・オンラインに真意を書いている。大学の受験戦争や就職難、結婚難、老後の不安、高い自殺率など、韓国社会が過酷な競争社会である現実を指摘し、「韓国に生まれていたらその過酷な競争社会のプレッシャーに自分は勝てなかったかもしれない」というのだ。

 見方を変えれば韓国社会や若い世代、とりわけ兵役義務を負う韓国人男性へ同情や共感を寄せたものでもあるが、韓国メディアにはそう映らなかったようだ。

 中央日報は「殺され殺す戦場にも最小限の不文律は存在する」となぜか第二次大戦時の出来事にまで言及し、「韓日関係もいくらねじれても守るべき最小限のマナーがある」と武藤氏の著書はそうしたマナーを超えたものだと主張。

 「だれよりも韓国をかばうべき元大使が背後から刃物で刺す行動」と表現し、激烈に批判した。

 しかし、日韓関係に詳しい専門家は「『大使経験者は駐在国をかばうべき』という発想は一方的だ。むしろその地で生活したからこそ分かる独特の欠点や問題点などもある。武藤氏、ひいては日本への甘えを感じる。日本は慰安婦問題が蒸し返されそうなことにうんざりしているというのに…」と話す。

 武藤氏自身、韓国人の性向について著作でこうつづっている。

 「客観的事実を直視せず、期待値を優先させて判断する韓国人の性向は、対人関係や人物評価においても同様だ」

■最悪の大統領

 韓国社会の批判に加え、武藤氏が文氏を「最悪の大統領」と位置づけていることも怒りを呼んだ理由のようだ。

 武藤氏は2012年の大統領選当時、候補者だった文氏と面談した。その際、文氏は日韓関係をめぐる武藤氏の説明には一切関心を示さず、「日本は北韓(北朝鮮)に対してどう臨むのか? そして統一についてはどう考えるのか?」と聞いてきたという。

 中央日報は「彼(武藤氏)が文大統領に会ったのはわずか1回だ。それでも武藤氏は『最悪の大統領』と断定する。文大統領がどうなるかは韓国人もよく分からないというのに」と不満をつづった。

 しかし、武藤氏が著書や記者会見などで再三指摘してきた「金大中、盧武鉉両氏の左派政権時に北朝鮮に流れた資金が核開発に使われたとの疑い」は、国際社会の“常識”にもなっている。

 そして、「外交、安全保障の軸が日本はおろか米国でも中国でもなく、北朝鮮」との指摘は、これまでの言動や主要ポストに親北派とみられる人材を配置しようとする人事政策を見る限り、残念ながら否定できそうにもない。

 日韓関係、東アジアの地域情勢は全くもって不透明だ。

http://www.sankei.com/west/news/170609/wst1706090053-n1.html

http://www.sankei.com/images/news/170609/wst1706090053-p1.jpg
武藤正敏・元駐韓大使の著書「韓国人に生まれなくてよかった」。韓国でも話題を集めている
http://www.sankei.com/images/news/170609/wst1706090053-p2.jpg
新著「韓国人に生まれなくてよかった」について語る武藤正敏元駐韓大使(時吉達也撮影)