椎名林檎 vs コトリンゴ©2ch.net
椎名林檎 中卒の自称音楽家
コトリンゴ バークリー音楽大学卒のお嬢様で天才 じゃあもう、さっさとこの人と付き合ってみよう。
と、非常に短絡的にそう思ったのは、「ルカ」とネット上でやりとりしている裏で、現実の私が真っ黒い執念を燃やしていたから。
憧れさえ抱いていた女友達から発せられた一言が毎日脳内のすきまを動き回っていたから。
その発言の瞬間だけが、切り落とされた生首のようにいまだに頭の中の部屋に転がっていて、そのほかのこと、どうしてそんな状況になったのかははっきりと思い出せない。
堀内は確かに、「私はやっぱり子供を産まないと、女じゃないと思ってるから」と言ったのです。 堀内がその発言をしたのは、別に私の性にまつわる話なんぞをしているときではなかった。
堀内が自分の話をしているときだ。夜中じゅう起きている日特有のおかしな心理状態で、もう酔いもだいぶ
冷めているはずなのに、堀内は妙に深刻なトーンになっていた。ちゃんと結婚したいし、いずれは子供が欲
しい、という話をしながら「私はやっぱり子供を産まないと、女じゃないと思ってるから......」と、自分自
身に焼き鏝でも押しあてるように言ったのだ。
あーそうなんだ、とかなんとか、おそらく返事にもならない返事をして、私は特に反論もしませんでした。
だからそれは、私を責める言葉でも、当てつけでもないと分かっていました。「迷わずに子供を産みたい。
他人はともかく自分はそう思っている」という意味での発言に決まっている。
しかし、その言葉は、私にどす黒い復讐心を燃やさせるに十分でした。
映画や本や音楽なんか私よりもはるかにたくさん知っていて、新卒でしっかり就職して、オシャレで......
そんな彼女がそう言ってしまう世の中なのだ。これが世間だ。彼女が世間に化けて私に迫ってきた。
なにも私は世間に喧嘩を売りたいなんて思っちゃいない、むしろ迎合できるならしたいくらいです。
恋愛して結婚して子供を産んで、何の迷いもなくそうできたらどれだけ楽か。いちいち悩むの面倒くさい、
楽できるものなら楽したい。迎合しようがないから悩むより仕方がないだけ。なのに、目の前の、ちょっと
した憧れだった女の子が目も鼻もないのっぺりとした世間という形になり、「子供を産まないと女ではない」
という呪文を発した早朝。 そのときに私は、さっさと男と恋愛をしなきゃダメだ、と思った。
それが私なりの世間へのおもねり方だと思ったのです。さっさと平凡な恋愛を済ませ、できることなら早めに結婚して、
世間の代表格のこんなやつを出し抜き、世間に埋もれてしまいたい。
かつていろんなセクシャリティの人に積極的に会っていたときは恋愛に発展することなど考えてもいなかったけれど、
あの方法論で行けば、恋愛なんてたやすいんじゃないか。