2018.12.09
 成人してから発覚する「大人の発達障害」が知られるようになり、自分自身や周囲の人に「発達障害かも」と疑いを持ってしまう人も少なくないようです。

 精神科医で「『発達障害』と言いたがる人たち」(SB新書)の著者でもある香山リカさんは、「コミュニケーションの取りづらい相手を発達障害と決めつけることで、思考停止に陥(おちい)っている人もいます」と指摘します。

 前回は他人から発達障害だと決めつけられたときや、自身が発達障害かもと感じたときの対処法について、香山さんにお話を伺いました。今回は発達障害を疑われて社内でいじめに遭っている男性の事例をもとに、このようなケースで周囲の人がどう対処すべきかを相談していきます。





部下を発達障害と決めつけ、堂々とののしる上司

 Cさんの目にした事例は次のようなもの。

 Cさんの隣の部署で働くBさんは、穏やかで優しい男性。ただ、あまり社交的ではなく、仕事上でミスも多いことから、いつしか「発達障害ではないか」との噂が広まるように。やがて、周囲の人はBさんを発達障害と決めつけて接するようになってしまいました。

 Bさん直属の上司に至っては、ニヤニヤしながら「あいつは発達障害なのに、なんであんな仕事をさせているんだ?」「なんで障害者枠で入ってないの?」などと口汚く罵(ののし)っていたとのこと。そんな状況を目にしたCさんは、「こんな会社にいたくない」と思う反面、隣の部署ゆえどうすることもできない自分に不甲斐なさも感じています。





決めつけは思考停止に陥る危険性も

――Bさんのような事例を耳にされたことはありますか?

香山リカさん(以下、香山):産業医としていろいろな事業所に関わっている中で、上司のかたが「部下は発達障害なのではないか」と相談に来ることはありますよ。そこから「発達障害の傾向がある人にはどう接したらいいのか」などと発展するならいいのですが、
Bさんのケースだと、勝手に診断名をつけて、「だから話してもわからないんだ」「だから難しい仕事はさせられない」と思考停止になってしまっているので、言葉に逃げているようでよくないと感じます。

――Cさんのように、他人を発達障害と決めつけ接している状況に直面したときはどうしたらいいでしょうか?

香山:「今の時点では専門家でもその診断って難しいらしいよ」「私たちじゃわからないよね」などと言って、安易に決めつけないようにたしなめる。もしくは、「私もそうかも」とか「そういう部長だって落ち着きがないから、ADHDとか言われちゃうんじゃないですか?」などと枠を広げてしまって、発達障害だと決めつけるのは意味がないことだという空気感にしてしまえばいいと思います。

――もし職場に発達障害を疑われるような人がいた場合、どう接するのがいいのでしょうか?

香山:発達障害と決めつけて「ダメだ」「この仕事はやらせない」と思考停止してしまうのではなく、ひとつのタイプとして、接し方や対応を考えていくべきです。例えば、対面でコミュニケーションをとるのが苦手な人でも、メール中心なら上手くいくなど、工夫次第で解決できることはたくさんあります。

 得意なこと苦手なことは誰にでもあるのですから、特別扱いをするのではなく、個性を活かす助け合いをしていくことが大切です。いってみれば、プライドの高い上司をみんなで持ち上げて仕事を円滑にするのと同じような感じですよ(笑)。

――このようなことはBさんに限ったことではないようです。

香山:昔は「引っ込み思案」とか「落ち着きがない」とか日常の言葉で済まされていたのに、それに対する診断名があることに気づいたから、みんなそう見えてしまっているという状況だと思うんです。それに、発達障害って、厳密に診断すればものすごくたくさんの人が当てはまるので、自分もそうかもしれないんですよ。まずはそのあたりを自覚して、そうかどうかもわからない人を勝手に決めつけるのは意味のないことだと気づいてほしいと思います。

 例えばこの先、発達障害が血液型や出身地くらいカジュアルになって、「あなたってADHDタイプじゃない?」「いや私アスペルガーだよ」みたいに、「どこ出身?」くらいのレベルで話せるようになるのなら、それはそれでいいと思うのですが、現状は、「障害だ」「私はそうじゃない」みたいな、ある種のレッテル貼りとして使っている側面がとても強いようなので、それはとても問題だと感じています。
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