南海トラフ沿いの巨大地震は、90〜150年間おきに起きるという、やや不規則ではあるのですが周期性があることがわかってきました(図表2)。
 こうした時間スパンの中で、3回に1回は超弩(ちょうど)級の地震が発生しているのです。その例としては、1707年の宝永(ほうえい)地震と、
1361年の正平(しょうへい)地震が知られています。
 実は、これから南海トラフ沿いで必ず起きる次回の巨大地震は、この3回に1回の番に当たっています。
すなわち、東海・東南海・南海の3つが同時発生する「連動型地震」というシナリオです。
 具体的に地震の規模を見てみましょう。1707年宝永地震の規模はM8.6だったのですが、近い将来起きる連動型地震はM9.1と
予測されています。すなわち、東日本大震災に匹敵するような巨大地震が西日本で予想されるのです。
■次の巨大地震は西暦2030年〜2040年に発生する
 なお、3つの地震は、比較的短い間に連続して活動することもわかっています。
その順番は、名古屋沖の東南海地震→静岡沖の東海地震→四国沖の南海地震というものです。

■南海地震が起きると地盤が規則的に上下する

最初に、南海地震が起きると地盤が規則的に上下するという現象を取り上げます。南海地震の前後で土地の上下変動の大きさを
調べてみると、1回の地震で大きく隆起するほど、そこでの次の地震までの時間が長くなる、という規則性があります。
これを利用すれば、次に南海地震が起きる時期を予想できるのです。
 具体的には、高知県室戸岬の北西にある室津(むろつ)港のデータを解析します。地震前後の地盤の上下変位量を見ると、
1707年の地震では1.8メートル、1854年の地震では1.2メートル、1946年の地震では1.15メートル隆起しました(図表3)。
 すなわち、室津港は南海地震のあとでゆっくりと地盤沈下が始まって、港は次第に深くなりつつあったのです。
そして、南海地震が発生すると、今度は大きく隆起しました。その結果、港が浅くなって漁船が出入りできなくなりました。
 こうした現象が起きていたことから、江戸時代の頃から室津港で暮らす漁師たちは、港の水深を測る習慣がついていたのです。
 図表3で年号の上に伸びている縦の直線は、その年に起きた巨大地震によって地面が隆起した量を表しています。
1707年では1.8メートル隆起しました。さらに、ここから右下へ斜めの直線が続いていますが、これは1.8メートル隆起した地面が
時間とともに少しずつ沈降したことを意味します。
 その後、毎年同じ割合で低くなって、1854年に最初の高さへ戻りました。すなわち、1707年にプレートの跳ね返りによって
数十秒で1.8メートルも隆起した地盤が、1854年まで147年間という長い時間をかけて元に戻ったのです。
 これと同じ現象は、1854年と1946年の巨大地震でも起きています。ただし、1854年には1.2メートル、1946年では1.15メートルと、
隆起量は少し異なっています。
 そして図表3には重要な事実が隠れています。先ほど述べた右下へ続く斜めの線を見ると、1707年から1854年まで、
そして1854年から1946年まで、という2本の斜め線が平行です。
■「リバウンド隆起」から予測すると発生時期は2035年前後
 これは巨大地震によって地盤が隆起した後、同じ速度で地面が沈降してきたことを意味しています。
こうした等速度の沈降が南海トラフ巨大地震に伴う性質、と考えて将来に適用するのです。すなわち、1回の地震で大きく隆起するほど
次の地震までの時間が長くなる、という規則性を応用すれば、長期的な発生予測が可能となります。
 この現象は海の巨大地震による地盤沈下からの「リバウンド隆起」とも呼ばれています。1707年のリバウンド隆起は1.8メートル、
また1946年のリバウンド隆起は1.15メートルでした。そこで現在にもっとも近い巨大地震の隆起量1.15メートルから、
次の地震の発生時期を予測できます。
 今後も1946年から等速度で沈降すると仮定すると、ゼロに戻る時期は2035年となります(図表3)。これに約5年の誤差を見込んで、
2030年〜2040年の間に南海トラフ巨大地震が発生すると予測できるのです。中央値を用いた別の言い方をすれば2035年±5年となります。