外太陽系のような極低温環境を模した実験により、氷天体に見られる赤色に似た様子が再現された。温度が上昇すると色が薄くなって消える現象も見られ、氷天体の色分布の謎を解明する手がかりになると期待される。
【2020年3月23日 東京大学】

火星と木星の間に広がる小惑星帯より外側の領域には、摂氏マイナス100度からマイナス230度という極寒の世界が広がっている。この領域は「外太陽系」と呼ばれ、数多くの氷天体が存在している。

氷天体のうち、海王星より外側に存在する太陽系外縁天体やケンタウルス族天体(木星と海王星の間に公転軌道を持つ氷天体)では、赤色を呈するものが見られる。しかし、より太陽に近づいた距離に存在する木星族の彗星では、赤色を呈するものは観測されていない。

ケンタウルス族と木星族の起源は共に太陽系外縁天体と考えられているが、このように色分布が異なっている。その理由の一つとして、赤色を呈する物質が太陽系の内側に行くにつれて昇華したり壊れたりすることが可能性として挙げられる。しかし、宇宙環境を模擬したこれまでの実験では、氷天体が色分布を持つ理由は謎のままだった。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の榊原教貴さんたちの研究グループは、極低温環境で生成可能なプラズマである「クライオプラズマ」を独自に開発してきた。このクライオプラズマを、メタノールおよび水からなる氷の表面に摂氏マイナス190度で照射し、外太陽系環境を模擬した実験を行ったところ、クライオプラズマ照射箇所だけが外太陽系に存在する氷天体と類似した赤色を呈することが明らかになった。

さらに、この赤色は温度が上昇して摂氏マイナス150度を超えると徐々に薄くなり、マイナス120度で消失するという現象も見られた。このような極低温環境での温度依存性が示されたのは初めてのことだ。

赤色が消失した温度は、外太陽系において赤色の氷天体が見られなくなる距離(木星と土星の間付近)で想定される天体の表面温度とも良い一致を示している。このことから、赤色の氷天体は太陽系の外側から内側へと旅をする間に、温度変化に伴って赤色を失い得るという可能性が示唆された。

外太陽系の氷天体に見られる赤色は、単に現在の天体の状況を物語っているだけでなく、天体移動の歴史や、地球外におけるアミノ酸など生体物質生成の可能性とも密接に関わっていると考えられている。今回発見された極寒でしか存在できない赤色は、外太陽系氷天体の色分布の謎を解き明かす新たな手がかりであると同時に、太陽系の形成および進化のメカニズム解明や生命の起源の探索にも貢献するかもしれないと期待される。
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