掲載日:2020年3月9日

 原始細胞を模した人工のモデル細胞を数十個同時捕捉し、任意のタイミングで化学的・物理的刺激を加えながら個々のモデル細胞を顕微鏡観察できる双方向型自動実験装置「MANSIONs」(注1)を開発しました。モデル細胞は、細胞膜の主な構成要素であるリン脂質(注2)の二分子膜(注3)が袋状に閉じた10 µmほどの人工小胞体(注4)として作製しました。MANSIONsでモデル細胞を捕捉し、ウラニンという蛍光分子や蛍光標識されたアデノシン三リン酸(ATP、注5)の水溶液に曝したところ、水溶液を流し入れている間でのみ、これらの分子をモデル細胞内外の濃度差(注6)に逆らって内部に溜め込む現象が観測されました。この現象が生じる機構として、モデル細胞が捕捉されたまま流れに押しつけられると二分子膜の表と裏の分子組成が変化し、モデル細胞内に浸み込んだ分子が外に漏れにくくなるという機構を提案しました。本現象は、生命起源研究(注7)で謎の一つとされている原始細胞内の分子濃縮(注8)を説明しうる新現象の発見にあたります。さらに、モデル細胞を用いた合成生物学(注9)の要素技術や分子ロボティクス(注10)分野の発展、細胞を治療する薬剤投与技術への活用など、広範な展開・応用が期待できます。

論文情報

Hironori Sugiyama, Toshihisa Osaki, Shoji Takeuchi*, Taro Toyota*, "Hydrodynamic accumulation of small molecules and ions into cell-sized liposomes against a concentration gradient," Communications Chemistry: 2020年3月9日, doi:10.1038/s42004-020-0277-2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)
https://www.nature.com/articles/s42004-020-0277-2

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0109_00355.html