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■予算配分への不満

◎江崎氏「マテリアルに投資を」/天野氏「産学で組織的に対抗」
 
この状況で予算配分への不満がくすぶっている。NISTEP調査で研究資金の配分機関が役割を果たしているか聞いた設問では28%が評価を下げ、上げたのは10%。学術研究にも濃淡がある。例えば宇宙研究では小惑星探査チームが水酸化マグネシウムを“水”とし、小惑星での水酸基含有鉱物の発見を、地球上の水の起源に迫れる成果と宣伝する。だが論文では水酸基含有鉱物を“水”とは書いていない。起源解明においては傍証の位置づけだ。素粒子研究では国際リニアコライダー(ILC)の推進派はILCで宇宙がつくれると宣伝するが、それはすぐに消えると小さく説明が入る。

茨城県科学技術振興財団の江崎玲於奈理事長は「ノーベル賞の分野で競争力につなげるならマテリアルやヘルスケアに投資すべきだ」と強調する。宇宙も素粒子も国内の予算の議論よりも先に海外で国際共同プロジェクトを約束する分野だ。必ずしも実用研究と学術研究の対立ではなく、学術研究の中でフェアに投資配分されているか疑う声がある。ビッグサイエンスなどの研究者と官僚が二人三脚で予算をとりにいく分野と、人文社会科学や数理などの研究者と官僚が分断された分野では差があった。ただ人工知能(AI)や自動運転の開発に数理は必須で、社会実装には人文社会科学の知見が欠かせなくなった。

◎田中氏「日本の良さ生きず」/大村氏「連携ではなく依存」

 この打開策として大学と企業の組織同士での産学連携が進められている。名古屋大学の天野浩教授は中国の台頭を念頭に「大学と産業界が組織的に対抗すべきだ」と説明する。島津製作所の田中耕一シニアフェローは「日本の良さを生かし切れていない部分があり、改善すれば世界と戦える」という。組織同士の連携で共同研究が大型化すると、その間接経費が大学本部の収入になり、基礎や学術研究へ配分できる。ただ北里大学の大村智特別栄誉教授は「資金源として国が頼れなくなったから企業に頼るというのは、連携でなく依存だ」と指摘する。

◎白川氏「好奇心が社会支える」/中村氏「自分で生き抜く術を」

 令和になっても確かなものは教育と人材だ。白川英樹筑波大学名誉教授は研究者が社会に科学を伝える重要性を説いてきた。「一人ひとりの好奇心と教養が社会を支え、研究者はこの社会に支えられている」という。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授は「工学系を目指す若者は、まず日本から出ることだ。学術界も産業界も沈んでいく国に留まり、それでも支援を求めて国にすがりつく日本の大学研究者にどんな未来があると思うか。若者には自分の脚で立ち、生き抜く術を身につけてほしい」と語る。

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