人類はおよそ1万〜2万年前に農作を始めたといわれていて、一説によると現在のイスラエルからイランにかけた中東がその起源地とされています。そんなイランにいくつも存在していて、近代化される以前の農業を支える重要な施設だったといわれる「ハトの塔」を、海外メディアのNo Tech Magazineが紹介しています。

Pigeon Towers: A Low-tech Alternative to Synthetic Fertilizers
https://www.notechmagazine.com/2016/10/pigeon-towers-a-low-tech-alternative-to-synthetic-fertilizers.html

現代科学では、農作物の生産性を上げるために窒素・リン酸・カリウムが肥料の三要素として重要な存在であることがわかっています。特に、空気中の水素と窒素から化学肥料を作り出すことができるハーバー・ボッシュ法は「水と石炭と空気からパンを作る方法」と呼ばれ、近代以降の農業を大きく変えたといわれています。

しかし、化学肥料が当たり前になる以前は主に有機質肥料が用いられていました。とりわけリン酸を含む有機質肥料には、人や牛、鶏の糞(ふん)が利用されます。イランやエジプトに見られるハトの塔は、肥料を作るためにハトの糞を効率よく集めるための設備でした。

ハトの塔は高さ10〜15メートルほど。基本設計はシンプルで、泥レンガで作られた柱で囲まれた中空の円筒の形状をとっています。柱には無数の巣穴が設けられていて、塔によっては最大1万羽まで収容することが可能です。ハトが塔に出入りするための穴は最上部に1つだけになっていて、これはハトの天敵であるヘビが侵入しないようにするための工夫だそうです。


野生のハトは鶏やアヒルのような手間がかからず、水と塔さえあれば勝手に集まって住み着きます。鶏のようにハトやその卵を貴重な動物性タンパク源として食用にすることも可能な上に、アヒルのように害虫を食べてくれるという利点も存在します。また、ハトの糞は肥料のほか、火薬の製造にも利用されていたこともあるそうです。

さらに、ハトの塔の利点として、効率的に有機質肥料の材料が手に入るだけではなく、メンテナンス費が低いこともあげられます。塔の管理は糞を収穫するためのシャベルと補修するためのレンガだけで、メンテナンスの周期も数百年単位だとのこと。


何世紀にもわたってハトはイランの政治経済において重要な役割を果たしてきました。およそ1万年前から農業が行われていたイランでは、短期間で大きな利益を得るよりも、長期にわたって収穫量が維持できることが重視されます。イランの農家にとって、ハトの塔は栄養価の高い肥料を安定して供給するために必要な施設であり、ハトの塔の所有者には特別に税金が課せられるほど重要な財産とされました。


1960年代にイランで化学肥料が普及するまで、ハトの塔は重用されてきました。しかし、現在ではハト料理の食材を調達する以外の目的で利用されることは減ってきているそうです。ハトの塔は現代では農業施設ではなく「農業危機に対するローテクな解決策の永続的な重要性を示す記念碑」として重要だとNo Tech Magazineは述べています。

https://i.gzn.jp/img/2019/01/29/pigeon-towers/00.jpg

https://gigazine.net/news/20190129-pigeon-towers/