■国際捕鯨委員会(IWC)から脱退することを宣言。今後何が起きるのだろう

2018年12月26日、菅義偉官房長官は、日本が国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)で商業捕鯨を2019年7月から再開することを決定したと発表した。89カ国が加盟するIWCは、クジラを保全し、世界の捕鯨を管理することを目的とする国際機関で1946年に設立。1986年には商業捕鯨を禁止している。

 動物の苦痛を軽減するために活動する非営利団体、動物福祉研究所と、国際的な野生生物犯罪を追跡する環境調査エージェンシーの報告書によると、日本は鯨肉の主要な市場だが、消費量は少なく、国全体での年間消費量は4000〜5000トン、1人あたりの消費にすると年間30g程度だという。

 クジラとイルカの保護に取り組む英国の非営利団体「ホエール・アンド・ドルフィン・コンサベーション」の捕鯨プログラムマネジャーのアストリッド・フックス氏は、このニュースが正式に確認される前に、日本がIWCを脱退する主な理由は政治的なもので、自国の海は好きなように利用できるというメッセージを送るためだろうと、米ナショナル ジオグラフィックに語っていた(国際社会は、最近も日本によるイワシクジラの調査捕鯨を阻止するために動いていた)。

 フックス氏は、捕鯨国の中で指導的地位にある日本がIWCを脱退したことで、韓国やロシアなどの捕鯨国がそれに続く可能性があると指摘する。

 商業捕鯨の禁止後も、国際社会は、生物学者がクジラの繁殖状況、胃の内容物、環境変化の影響などを科学的に調べるための調査捕鯨を例外として認めていた。日本は長年、調査捕鯨として捕獲したクジラの体の一部を研究者に提供し、「残りの部位は食用に販売している」と批判されていたのだ。

 国際的な動物愛護団体ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナルのキティ・ブロック会長は、「日本は商業捕鯨の一時禁止の取り決めと、国際的な市民の意思を長年にわたり軽んじてきたのです」と語っている。

 2018年9月に開かれたIWCの総会で、日本は商業捕鯨の再開を提案。しかし、投票で否決された。

「商業捕鯨の再開のために、日本は多額の資金を投入してきました」とフックス氏は言う。「日本政府には、この総会の提案で国内の世論に働きかけられる期待している人もいました」

 総会後、日本の谷合正明農林水産副大臣は、IWCからの脱退の可能性を示唆した。

 日本は過去にも同様の示唆をしている。しかし、フックス氏は今回、これまでとは違うものを感じたという。「商業捕鯨を受け入れられなければ、本当に脱退するつもりなのだなと感じました」

ブロック氏も同じ見方をしていた。「脱退をほのめかすのは、日本の常とう手段でした。何年も前から繰り返していましたが、今回は本当になりました」

 IWCから脱退することで、日本は今後、IWCが許可してきた公海(どの国にも属さない海域)での調査捕鯨ができなくなる。国連海洋法条約は、日本を含む署名国に、海洋哺乳類保護のための「適切な国際組織」を通じて活動することを要請しているからだ。IWCこそ、その組織であるというのが各国の法律学者の一般的な見解で、IWCに加盟していない国にとってもその点は変わらない。日本がIWCから脱退すれば、自国の領海とEEZでなら、監督なしに捕鯨を再開できることを意味する。

 日本のIWC脱退は、南極海のクジラにとっては良い知らせになった。日本は2016年には南極海で300頭以上捕鯨している。その中には200頭以上の妊娠した雌も含まれていた。

 もちろん、日本の海域に生息するクジラにとって、日本のIWC脱退は悪い知らせだ。なかでも心配されているのは、日本の海域の「日本海・黄海・東シナ海系群(J ストック)」のミンククジラである。ミンククジラが標的となったのは、他のクジラに比べて個体数が比較的多く、商業捕鯨がさかんだった1970年代にもあまり減少しなかったからである。

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続く)