■「誰かの頭の真後ろで手を叩くようなもの」と研究者

捕食者からの攻撃を受けたとき、キタアオジタトカゲ(Tiliqua scincoides intermedia)は、
体を丸めたり走って身を隠したりはしない。
その代わり彼らは、色鮮やかな舌を捕食者に向かって突き出してみせる。

 こうした反応は威嚇ディスプレイと呼ばれ、他の種にも見られるが、
キタアオジタトカゲのように鮮やかな色を利用するものはあまり多くない。
威嚇ディスプレイの目的は捕食者をひるませることだ。
たとえばボリビアバグという蛾の幼虫は2本の触角からギ酸を飛ばすし、イエネコは背中を丸めて歯をむき出し、
「シャーッ」という音を出して警告を発する。

「人間で言えば、誰かの頭の真後ろで手を叩くようなものです。
相手は驚いて、一瞬、呆然としてしまうでしょう」。
6月7日付けの学術誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」に発表された論文の共著者で、
オーストラリア、マッコーリー大学の生物学教授マーティン・ホワイティング氏はそう語る。

 キタアオジタトカゲの舌は、メラニン色素によって青いペンキの中に浸したかのような色をしている。
根元は幅が広く、先端は細くなっており、自在に平たくしたり、膨らませたりできる。
その動きはすばやく、ほんの一瞬で大きく突き出せる。

 論文では、キタアオジタトカゲの青い舌に関するもう一つの特徴が明かされている。このトカゲの舌の裏側は、表側よりもさらに強烈に紫外線を反射して明るく輝くという。トカゲが舌の裏側を見せるのは、捕食者からの攻撃が最終段階に入ってからだ。(参考記事:「光るパフィンを発見、紫外線でくちばし輝く」)

■「捕食者の目をくらませられる」

 この論文の主要な筆者で、
フランス、パリ環境科学研究所の「マリー・キュリー研究員」であるアルノー・バディアン氏は、
マッコーリー大学、スペインのバレンシア大学、
シドニー大学と共同でキタアオジタトカゲの青い舌の研究を行った。
研究チームが取り上げたキタアオジタトカゲ(Tiliqua scincoides intermedia)は、体長30センチを超えるアオジタトカゲ属の最大種だ。

雑食性で地上に暮らし、原産地はオーストラリア、インドネシア東部、パプアニューギニア。
カラフルな舌のほか、ずっしりと重たい体と三角形の頭部、短くて太い足と尾を持つ。

 彼らは動きが緩慢で、茶色い縞模様が入った体は周囲の景色に溶け込む。
主な捕食者は鳥、ヘビ、オオトカゲなどだ。過去の研究によって、
これらの種には紫外線が見えることが証明されている。

 実験では、研究者らがキタアオジタトカゲ13匹の舌の表面を計測したところ、
舌が紫外線を反射していること、また裏側の紫外線の反射量は表側の2倍近くあることがわかった。

「舌の裏側の輝きの強さは相当なものです」とホワイティング氏は言う。
「強烈な色がピカッと光れば、捕食者の目をくらませられるでしょう」

 2015年の研究では、同じアオジタトカゲ属の仲間であるオオアオジタトカゲ(Tiliqua gigas)の舌が紫外線を反射することが判明している。今回のキタアオジタトカゲの研究は、紫外線を反射する舌を持つトカゲが多いという説を裏付けるものだ。

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続く)