■半世紀以上も専門家たちを悩ませてきたその正体がついに明らかに

4世紀から7世紀の欧州では、ゲルマン系のゴート族やバンダル族がさかんに西へ移動していた。
いわゆる「ゲルマン民族の大移動」だ。彼らは衰退するローマ帝国の領地に次々に侵入し、
定住した。なかでもバイエルン人は、6世紀前後に現在のドイツ南部に移住した民族だが、
その墓地から、この地方には珍しい細長く変形した女性の頭骨が見つかり、専門家らは半世紀以上も頭を悩ませてきた。

 頭蓋を人為的に変形させるこうした風習は、当時の欧州ではいまのハンガリー周辺など、東方の一部でしか見られなかった。
その先はフン族と呼ばれる屈強な民族連合体が支配していた。そして、彼らの埋葬地からは、女性の変形頭蓋が数多く見つかっている。
その風習が、どのような経緯でドイツまで入り込んだのだろうか。

フン族か、あるいは別の民族が頭蓋変形の技術を持ち込み、
それを見たバイエルンの女性たちが真似たのではないかという説もある。
だが、最新の研究により、この変形した頭骨がよその土地から移住してきた女性のものであることが明らかになり、
3月12日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に論文が掲載された。

■似ても似つかない顔の男と女

 論文を発表した研究チームは、5〜6世紀のバイエルン人の墓地6カ所に埋葬されていた36人分の人骨のゲノムを解析した。
そのうち26人が女性、10人が男性で、14人の女性の頭骨に頭蓋変形が施されていた。
そのほか、ローマ兵士のものと思われる人骨や、より東のいまのクリミアとセルビアに埋葬され、
やはり頭蓋変形が施された女性2人の人骨など、5人が分析対象に加えられた。

 頭蓋変形は、自然に起こったものではない。生まれてすぐから骨の形が決まる時期まで、
赤ちゃんの頭部を注意深く締め付けて、形を固定させる。
すると、その形を保ったまま成長するため、大人の頭も細長く伸びた形になる。
見た目の美しさなのか、健康のためなのか、他の理由があるのか、目的は定かでない。

 研究者らは、人骨のDNAの一部を解析し、11人分に関しては全ゲノム配列を決定した。
これらのデータから、外見、祖先の出身地、健康状態がわかる。

 その結果、男性たちは恐らく小さな集団に属する農民で、金髪に青い目を持ち、一様に似たような顔立ちをしていた。
頭骨が変形していないか、わずかに変形しただけの女性の目と髪の色も同じだった。
だが、頭骨が大きく変形した女性たちの多くは茶色い目に金髪か茶髪で、似ても似つかない顔だったことが明らかになった。

外見の違いは氷山の一角に過ぎない。さらに中世初期バイエルン人の遺伝子を現代人のそれと比較してみると、
大きな違いがあることが判明した。

 男性の遺伝子はいまの北欧や欧州中央部の人々に近いのに対し、
とりわけ、変形頭蓋を持つ女性たちの結果は驚くべきものだった。
ルーマニアやブルガリアなど、いま欧州南東部にいる人々の遺伝子に近いものの、
欧州南部の各地に由来する遺伝子がまちまちに交じり、なかには東アジア由来の遺伝子を2割以上もつ者が1人いた。
いま欧州にいる人で東アジア由来の遺伝子をこれほどもつ人は知られていない。

「考古学的には、彼女たちは属していた集団の人々とそれほど変わったところはありませんが、
遺伝学的には全く異なっています」と、ドイツにあるマインツ大学の集団遺伝学者で、
論文の著者であるヨアキム・ブルガー氏は語った。

 この研究結果から言えるのは、女性が地元に同化し、伝統を取り入れていったということだ。
頭蓋変形の習わしも、彼女たちの代で途絶えたように思われる。
だが、なぜ全く違う遺伝子の持ち主がこの場所に眠っていたのだろうか。

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画像:ドイツ南部にある1400年前の墓地で見つかった頭骨には、人為的に変形された跡があった。
左側の頭骨は大きく変形され、中央はわずかに変形されたもの。
専門家は、頭蓋変形がドイツよりも東方に住む民族の風習だったと考えている。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/031400116/ph_thumb.jpg

ナショナルジオグラフィック日本版サイト
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