https://research-er.jp/articles/view/66976

理化学研究所(理研)脳科学総合研究センターシステム神経生理学研究チームの藤澤茂義チームリーダー、檀上輝子基礎科学特別研究員と神経適応理論研究チームの豊泉太郎チームリーダーらの共同研究チームは、自己と他者が空間のどこの場所にいるのかを認識する仕組みを、ラットの脳の海馬[1]における神経細胞の活動を記録することで明らかにしました。


脳の海馬には、「場所細胞[2]」という自己の空間位置を認識する神経細胞が存在します。しかし、自己以外のもの、例えば物体や他者などの空間位置情報がどのように認識されているかは解明されていませんでした。


今回、共同研究チームは、2匹のラット(自己ラットと他者ラット)に、「他者観察課題」を学習させました。他者観察課題とは、自己ラットが他者ラットの動きを観察することで報酬がもらえる場所を知ることができるという行動課題です。そして、このときの海馬における個々の神経細胞の活動を、超小型高密度電極[3]を用いて記録しました。その結果、海馬において、自己の位置を認識する標準的な場所細胞に加え、他者の位置を認識する神経細胞が存在することを発見しました。特に、場所細胞の中に、自己の場所と他者の場所を同時に認識する細胞が多かったことから、これを「同時場所細胞」と名付けました。


今回の研究では、海馬の場所細胞は自己の空間上の位置のみならず、他者の空間上の位置も同時に認識していることを明らかにしました。この結果は、私たちがどのように自己や他者の空間情報を認識しているかを解明する上で重要な知見となります。


本研究成果は、米国の科学雑誌『Science』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(1月11日付け:日本時間1月12日)に掲載されます。


本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域「こころの時間学」などの支援を受けて行なわれました。


背景

私たちは普段の暮らしの中で、さまざまな空間認識を自然に行っています。例えば、見慣れた街を歩いているとき、自分が今、最寄り駅からどのくらいの位置にいるのかを簡単に思い浮かべることができます。このような空間認識は、脳の海馬という部位がつかさどることが知られています。海馬には、空間における自己の位置を認識することのできる「場所細胞」という神経細胞が存在して、脳内で地図を構成することに役立っています。


しかし、これまでの研究では、自己の位置を認識する仕組みは分かっていましたが、例えば自分が見ている他者が空間上のどの位置にいるのかを把握する仕組みは解明されていませんでした。

中略

今回、海馬の場所細胞が自己の空間上の位置のみならず、他者の空間上の位置も同時に認識していることを明らかにしました。この結果は、私たちがどのように自己や他者の空間情報を認識しているかを解明する上で重要な知見となります。


自己の空間位置だけでなく他者の空間位置を把握する能力というのは、社会的な生活を営む上でとても重要だと考えられます。今後は、このような他者の空間情報を認識する機能が、私たちの社会性行動の能力とどのように関連しているのかが明らかになっていくと期待できます。

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