家族の大部分が「痛みを感じないがゆえに気づかないうちに骨折やヤケドをしている」という特殊な状況にある、
Letizia Marsiliさん一家。Letiziaさんたちの遺伝子変異について調査すれば、
病気の治療に役立てることができるのではないか?ということで、研究者らが一家の謎に迫っています。

novel human pain insensitivity disorder caused by a point mutation in ZFHX2 | Brain | Oxford Academic
https://academic.oup.com/brain/advance-article/doi/10.1093/brain/awx326/4725107

The family that doesn't feel pain - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-42322225

Letizia Marsiliさんと、2人の息子、母親、姉、甥といった家族は、
「痛みを感じない家族」と呼ばれています。
痛みを感じないということは一見するとメリットのように聞こえますが、
痛みは体が出す「警告シグナル」なので、シグナルを受けられないがゆえにケガも多いとのこと。

実際にはMarsiliさんらは全く痛みを感じないわけではないのですが、
数秒ほどしか痛みを知覚できないそうです。それゆえに、24歳になる息子のLudovicoさんはサッカーのプレイ中、危険な接触プレイにあってもすぐにゲームに戻ってしまい、知らないうちに足首の骨に小さなヒビがたくさん入ってしまったといいます。また、21歳になるもう1人の息子はバイクから落ちた時に骨折したことに気づかず、肘で石灰化が起こってしまったとのこと。Letiziaさん自身もスキーの途中に肩を骨折してしまったにも関わらずスキーを続行し、翌日になって指がしびれて初めて病院に行ったという経験を持ちます。Letiziaさんやその家族は骨折があっても気づかないため適切に傷が癒えず、たびたびヤケドしたり、ケガをした場所が硬化したりということが起こるそうです。

Letiziaさんの母親や姉、めいも同様に痛みを感じず、めいは氷水の中に20分間にわたって手をつけていても平気だったとのこと。

しかし、上記のようなことが起こるにも関わらずLetiziaさんは痛みを感じないことを「人生におけるネガティブなこと」と捉えていません。「私たちは毎日、いたって普通の日々を過ごしています。それどころか、大部分の人よりもよい暮らしをしているのかもしれません。気分の悪さや痛みをほとんど感じないのですから」とLetiziaさんは語りました。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者であるJames Cox教授らは、「痛みを感じない」という症状の原因遺伝子を探るべく、Letiziaさん家族を対象に調査を実施。Brainに発表された論文によると、Letiziaさんらの表皮には「神経繊維がない」のではなく、「標準的に神経繊維は存在しているが、正常な働きをしていない」という状態だったとのこと。「私たちは、彼らがなぜ痛みをあまり感じないのかをより理解するべく研究を続けます。研究から、痛みを緩和する新たな治療法が見つかるかもしれません」とCox教授は語りました。

Marsili症候群と名付けられたこの症状がどの遺伝子を原因としているのかを調査するため、研究者らがそれぞれの家族メンバーのタンパク質コード遺伝子をマッピングしたところ、ZFHX2遺伝子の中に変異があることを発見。その後、マウスを使った実験でZFHX2遺伝子を取り去ったところ、マウスの痛みに対する閾値が変化することがわかりました。また、Marsili症候群と同様の遺伝子変異があるマウスは高熱に対して著しく鈍感になったとのこと。

イタリア・シエナ大学のAnna Maria Aloisi教授は「痛みの感受性に対して変異がどのようなインパクトを与えているのかや、どの遺伝子が関わっているのかを理解していけば、私たちは薬開発において新しいターゲットを見つけることができるでしょう」とBBCに対して語りました。

写真の女性がLetiziaさん
https://i.gzn.jp/img/2018/01/14/family-doesnt-feel-pain/99229414-tocco2_m.jpg

GIGAZINE
http://gigazine.net/news/20180114-family-doesnt-feel-pain/