・「トランスヒューマニズム」の夢続く、懐疑派の声をよそに

【12月19日 AFP】脳インプラント、寿命の延長、遺伝子組み換え人間など、科学の助けを借りて現在の限界を超えて人間を進化させる「トランスヒューマニズム(超人間主義)」の提唱者らにとって、その実現性は単に時間の問題に過ぎない。

だが、多くの科学者らは、そこにあるいくつかも問題はそう簡単に解決するものではないと強調する。トランスヒューマニズムの流れについて彼らは、遅かれ早かれ「科学的に不可能」という越え難い壁にぶつかるであろうとの考えで一致しているのだ。

 記憶に新しいところでは、中国の科学者、賀建奎(He Jiankui)氏が11月、世界で初めて遺伝子編集を施した双子の女児を誕生させたと主張し、議論を巻き起こしたばかりだ。賀氏によれば、双子はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への耐性を獲得したという。

 賀氏の主張は科学界からの反発を招き、結果として賀氏は勤務先の大学から停職処分を受けた。この一件では科学の質に関する疑惑だけでなく、研究の倫理性をめぐる問題も提起された。

 だが、トランスヒューマニストの夢は今に始まったことではないと、仏トランスヒューマニスト協会(AFT)のマーク・ルー(Marc Roux)会長は話す。「人間の生物学的進化に介入するための技術の利用について、われわれには選択肢があるということに気づいたとき、トランスヒューマニズム(の概念)が登場した」

■未来への投資

 現在のテクノロジー大手企業の一部も同様の考えを持っているように見受けられる。

 それを示すかのように、米グーグル(Google)は、トランスヒューマニズム運動で指導的立場にあるコンピュータ科学者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏を採用している。同社はさらに、人々がより長寿で健康的な生活を送るのを助ける技術の活用を専門に扱う調査会社Calicoの支援も行っている。

 米電気自動車(EV)大手テスラ(Tesla)の創業者であるイーロン・マスク(Elon Musk)氏は、「人間とコンピューターを接続する移植可能な脳・機械間インターフェース」を開発するための新興企業「ニューラリンク(Neuralink)」を米サンフランシスコで立ち上げた。

■実験する権利

 しかし、トランスヒューマニズムの倫理的影響について研究する、英サセックス大学(University of Sussex)のブレイ・ホイットビー(Blay Whitby)氏は懐疑的だ。

「トランスヒューマニズム支持者から送られてくるメールの中には、署名に『死は今や自由に選択できる』や『500歳まで生きる初の人間がすでに生まれている』などのスローガンが添えられていることがある」と、ホイットビー氏は述べる。「彼らは明らかに私よりも楽観的だ」

 AFTのルー会長も技術の進歩によって倫理的問題がもたらされていることは認めている。だが、未来の世代に深い影響を与えることを目的に変更を加える行為そのものを嫌悪すべきではないというのが、トランスヒューマニズム支持者らの見解となっている。

「どうしてこれが必然的に悪いことになるのだろうか」と、ルー会長は問いかける。「この問題に関しては、もはや議論の余地はない。トランスヒューマニストは道徳的見地から非難されるが、人々はその理由を忘れてしまっている」

 トランスヒューマニストらは、赤外線スペクトルで見ることを可能にする網膜移植や、超音波を聞き取ることを可能にする蝸牛(かぎゅう)移植といった、すでに技術的に可能な実験を行えない理由はどこにもないと考えているのだ。

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2018年12月19日 14:53 AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/3203255?act=all