ラテンアメリカから住宅不足が招く深刻な空きビル不法占拠

南米の最大都市ブラジル・サンパウロ市で、貧困層が老朽化した空きビルに不法入居する問題が深刻化している。5月には約400人が住む高層ビルで火災が起きて倒壊し、7人が死亡した。火災から3カ月たったが、行政の場当たり的な対応が目立つ。

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 火災3日後の5月4日、オフィスビルやマンションが並ぶ市中心部の現場を訪ねた。高さ約5メートルのがれきから煙がくすぶり、焦げ臭いにおいが漂う。消防や警察がショベルカーでがれきを撤去し、行方不明者を捜索していた。被災者は近くの教会の敷地に張られたテントで避難生活を送っていた。

 24階建てビルの3階に住んでいたアジウソンさん(48)が取材に応じた。「寝ていたら『バーン』と大きな音がし、跳び起きた」。5月1日午前1時半すぎに出火した火災を振り返った。熱気と煙が迫る中、妻(46)と長男(4)を慌てて起こして逃げ出した。ビルは約1時間半後に倒壊した。5階で電気回線がショートして出火し、耐火性の低い構造のビル全体に燃え広がって倒壊したとみられている。

 アジウソンさんは「お金も身分証明書も何も持ってくる余裕がなかった」と途方に暮れた。貧富の格差が激しいブラジルでも特に貧困層が多い北東部の出身。約20年前、職を求めてサンパウロ市郊外のスラム地区「ファベーラ」に移り住んだ。人通りが多い市中心部で水や菓子を路上販売していたが、交通費が高かった。数年前、中心部に近い現場ビルに転居した。空きビルを不法占拠した団体が、安い賃料で貧しい人々を入居させるのだ。アジウソンさんは「多少、危険があっても今後も便が良い中心部の不法占拠ビルに住みたい」と話す。上下水道などインフラが未整備なファベーラより、交通アクセスが良く、最低限の設備が整った空きビルを好む傾向がある。

被災者に行き場なく、公営住宅は数十年待ちも
 連邦政府所有の現場ビルは2012年、空きビルになった。連邦政府から市への所有権移転手続きが進まず、管理はずさんだった。そこに目をつけたのが、憲法に基づく「居住権の保障」を主張する市民団体だ。団体は貧困層やホームレス、外国人を住まわせて、月200〜400レアル(約5700〜1万1400円)の家賃を徴収する。不法占拠を黙認させるため周辺の建物の警備員らに金を払う一方で、家賃を着服していたとの情報もある。団体メンバーは火災後に行方をくらまし非難された。市内では約100の市民団体が同様の活動をしているとされ、貧困層の権利拡大を訴える街頭デモも行う。

2018年8月17日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180817/mog/00m/030/007000c