■フン・セン独裁強化に向けた「不正選挙」に8億円の無償資金協力を約束した日本が、見極めるべき真の「国民の意思」

7月29日、カンボジア人は自由で公正とは程遠い選挙に行くことになる。フン・セン首相と与党カンボジア人民党(CPP)はこの1年、野党の解散を命じ、反体制派を拘束し、独立系メディアを黙らせた。残念なのは、日本などが選挙支援に多額の資金を注ぎ続け、この不正選挙に正統性を与えていることだ。

筆者の国マレーシアでは野党連合が5月の総選挙で、61年間の与党支配を終わらせた。政府は選挙前にいつもの「汚い手」をいくつか行使し、選挙区割りを違憲な形で引き直し、野党候補を恣意的に失格とし、反「偽ニュース」法を導入して批判の抑圧を狙った。だがマレーシア人は82%の高投票率で大方の予想を覆した。

マレーシアの場合は不公平な条件下でも野党が一応戦えたが、カンボジアでは「登板」すら許されていない。フン・センとCPPの任期延長を追認するだけのインチキ選挙だ。

CPPは数十年にわたり断続的に国を支配。近年は最大野党カンボジア救国党(CNRP)の勢いに懸念を強めてきた。CNRPは13年の議会選と昨年の地方選で善戦し、各選挙で4割以上の票を獲得した。

今回の選挙に備えてCPPは昨年11月、政治色が強い最高裁を通して、CNRPの解党に動いた。そのわずか2カ月前には、CNRPのケム・ソカ党首を言い掛かりのような容疑で逮捕。最大野党の不在でカンボジア人は真の選択肢を奪われた。約20の政党が選挙で争うが、その多くがCPPと手を握るか、大した支持の集まらないミニ政党だ。

CNRPへの攻撃はCPPによる弾圧の氷山の一角にすぎない。この1年、市民団体は沈黙を強いられ、独立系メディアはほぼ排除された。英字紙プノンペン・ポストは5月、フン・センに近い実業家に強制的に売却された。

■「国民の意思を反映」?

「国家安全保障」を脅かすネットを監視する政府機関がつくられ、メディアは「混乱と信用喪失」を招く選挙報道を一切しないように指導されている。投票の棄権を訴える市民運動に対して、警察は法的措置に出ると脅迫。公務員に対して、投票しなければ給料を減らすと脅した。

そこには高投票率を誇示して、うわべだけの正統性を維持したいというフン・センの必死さが透けて見える。カンボジアが国際社会に、監視団や選挙支援活動を要請したのも同じ思惑だ。

これに対して、欧米各国は選挙活動における深刻な不正を指摘し、すぐに財政支援停止と監視団派遣拒否を決めた。だが日本は2月に8億円の無償資金協力を約束し、投票箱などの選挙用物品を供与することを決定。「国民の意思を反映する」選挙改革の支援をうたった。中国、ミャンマー(ビルマ)、ロシアなどは監視団派遣に合意したが、日本が派遣見送りを決めたのは選挙のわずか4日前だ。

日本は歴史的に、カンボジアの民主化と国家復興のために重要な役割を果たしている。カンボジア内戦終結に向けた91年のパリ和平協定は自由で公正な選挙などによる人権と民主主義の尊重を定めたが、日本はその主要署名国の1つだ。93年の第1回総選挙を監視するなどカンボジアの発展に深く関わった。

不幸なのは日本のようなれっきとした民主国家が、自由選挙を損なうフン・センの権力掌握と画策から目を背けてきたことだ。選挙支援は重要で称賛すべきだが、一党支配体制への移行を強化するだけの非民主主義的選挙では意味がない。

長年、マレーシアの強権支配に対して民主主義と法の支配を訴えてきた政治家として、筆者は国際支援の重要性を知っている。マレーシアでは民主主義の勝利が証明されたが、カンボジアではその機会さえ持てない。

インチキ選挙を正当化する日本に訴えたい。カンボジアとの関係を見直し、民主主義の破壊を許さないという姿勢を示してほしいと。それこそが「国民の意思を反映する」ものだ。

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ニューズウィーク日本版
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