文春オンライン10/17
https://bunshun.jp/articles/-/58054

――今の声優界で、注目している方はいますか?
若本 声優ですか? 逆に聞きたい、誰か活きのいい若手いますか? 最近の声優は、きれいにしゃべるんだけどね、変化がないんだよ。誰が何の役をやってるのかわかんない。多少しゃべり口だけが変わるぐらいで、声も同じだし。

そのシーンで、その役が何をやっているのかわかりにくい。シーンをシーンとして成り立たせることができないんだよね。フレーズをより日常化させて、リアリティを表現できるか。これが声優なんだ……。

――なるほど。
若本 声優はね、素質だけじゃ続かないんだよ。10年持たないよ。素質があることは前提で、その上に鍛錬が折り重ならないと続いていかない。次から次へと新しい人が出てくるからね。

思うに、今の声優は、話し方がパターン化している。昔は、「この役と言えばあの人」というのがあった。たとえば、僕が入ったころなんか、西部劇の娼婦役の吹き替えの人なんか、うまかったね。華があった……。

今の吹き替えはもう、みんな同じ声に聴こえてきて、つまんないんだよ、見てても。海外の役者に負けてるから。海外の役者を「声で」超えていかなきゃ……。

――そういう説得力には、先ほど(#2)の「土のにおい」が重要ですか。
若本 重要ですよ。聞こえてくる声のパフォーマンスがアルコール消毒されたような感じでね。ドロドロにのたうち回ってるような強烈な体臭というか、人間の息吹が感じられない。

例えば、かっこいい役でもね、裏ではいろんなダーティなことをやってるわけじゃない。そのダーティな面をバックに背負って表現しているかどうかで、セリフが全然違って聞こえてくる。

それと、これだけははっきり言っておきたいんだ。素質のない人はこの世界に入ってきちゃ苦労する。2年なら2年と期間を限定して、ダメならスッパリ転身して欲しいんだけどね。

――早い身の転換が必要だと。
若本 ただ、なかなか諦めきれないんだよね。続けていれば、なんとかなるんじゃないかと思う世界なんだ。

僕が見ている範囲では、底を打つような鍛錬をしている声優は少ないね。若いときはかっこよくしゃべればそれなりに評価してくれる。でも、さっき言ったように、かっこいいキャラクターだって、日常生活を送れば、恥ずかしいこともする。そういうものを背負ってかっこいいセリフを言うのと、かっこいいだけのセリフを言うのとでは全然厚さが違う。人生の裏を背負っている人は、セリフが違う。

若本 エンディングのテロップまで見ようという声優はなかなかいないんだよ。うまい子は多いよ。僕なんか入った時よりも、はるかにうまい。でもね、興味が持てるくらいのオリジナルな個性がないんだよ。それがないと、この世界で続けていけないというか頭抜けていかない。

声優はセリフの勉強をやっていれば良いというもんじゃない。一番良くない勉強の仕方は、台本をもらって、語尾がどうだ、出だしがどうだ、と言われて、また読んで。これじゃあ絶対に進化しない。

言い回しとかね、そんなのはどうでも良いんだよ。呼吸と声を鍛えりゃ良いんだよ。鍛えに鍛え込めば、セリフは後からついてくる。

これからは、ざらついた声とか、地獄から覗き込むような声とかね。カーニバルにいる奇人みたいな声とかね、そんなことのできる個性を持っている人が来てほしいなと思っているね。それから悪役。悪役が際立たないとね、もうヒーローが“ヘーロー”になっちゃう……。

――(笑)。
若本 ハリウッドがなんでおもしろいかっていうと、様々な脇役……特に悪役がすごいんだよ。見ているこちらが思わず「この野郎」と思うような悪役なんだよね。男性も女性も、ものすごい迫力。

そういう声優が出てきてほしいんだよね。もう通り一遍のヒーローはいいよ。さわやかな裏にダーティさを秘めているというか。もっとオリジナルなキャラクターが欲しい。えぐってくるような声じゃないから、突き刺さらない……。

――最近はアイドル活動をする声優もいますが、若本さんはどう見ていますか?
若本 歌とか、アイドルっぽいイベントとか、そういうのは声優としての本業じゃないですよ。本業はあくまでも声優。ナレーションも含めてね。そういうのは副次的なお仕事だから。

――最近は俳優として活躍している声優もいますが、声優としての仕事を深める上で、役立つとお考えでしょうか?
若本 それはそれで良いんじゃない? でも本業の人にはかなわないよ。コロナ禍で、声優が司会した番組がたくさん出たけど、本業の人には敵わなかった。あくまでも声優は声優としての実力をつけなさいってことだね。

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