性表現を巡る「研究」書が「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」として、滋賀県と北海道から有害図書指定を受け、論議を呼んでいる。指定された書籍は18歳未満への販売が禁止され、書店の陳列で一般書籍と区別される。市民団体は「行き過ぎた措置」と反発している。制度に詳しい法学者は、指定基準の曖昧さを問題点に挙げる。

 滋賀県が指定したのは「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」(双葉社)。消えゆくエロ本自動販売機の現存例を豊富なカラー写真で紹介し、エロ本自販機の歴史や探し方のこつも解説している。北海道が指定した「エロマンガ表現史」(太田出版)は漫画における性表現の移り変わりを多数の図版とともにたどる。どちらも青少年健全育成条例に基づき、外部の委員による審議会での審査を経て「著しく青少年の性的感情を刺激する」などとして、今年3月に決定した。

 滋賀県によるとエロ本自販機は2003年に県内47カ所にあったが「青少年の健全育成」のために撤去活動に取り組み、11年にゼロになったという。県は審議会に諮った理由を「有害図書の購入につながる」(子ども・青少年局)とする。

 表現の自由を守る活動に取り組むNPO法人「うぐいすリボン」(静岡県)は、この問題を考える講演会を6月末に京都市内で開いた。荻野幸太郎代表は今回指定を受けた書籍について「これまで指定を受けてきた本とは異なる内容の研究書」と疑問視する。有害図書指定で図書館や市民講座で扱われにくくなる可能性もあるという。

 滋賀県が指定した「探訪記」の著者、黒沢哲哉さん(60)は集会で戸惑いを口にした。「エロ本自販機はインターネットの普及でどんどん減っている。誰にも顧みられずに忘れられていく存在を記録にとどめるのは今しかないと思った」

 今回の指定について、集会で論点を解説した京都大の曽我部真裕教授(憲法)は「『著しく青少年の性的感情を刺激する』という指定基準が曖昧。未成年の知る権利が阻害されることとの兼ね合いとともに、制度の在り方を議論する必要がある」と指摘した。

■有害図書類 都道府県の知事が18歳未満に対する販売・貸与・閲覧を禁じる。対象は書籍、雑誌のほか、ビデオテープなど電磁的方法による記録媒体も含まれる。違反した場合は30万円以下の罰金が課せられる。1950〜80年代に、青少年の健全育成をうたった条例が全国でつくられ、導入された。

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