収穫作業が遅れ、柿の実がついたままの畑=5日、長野県飯田市山本で(寺岡葵撮影)
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/images/PK2018110602100001_size0.jpg

 加工食品への出資を募るオーナー制度などを展開し、多額の資金を集めた通信販売会社「ケフィア事業振興会」(東京)の破産の余波が、干し柿「市田柿」の産地、長野県南部に広がっている。柿の栽培や干し柿の製造をしていた同県飯田市周辺の関連会社も、収穫期直前に相次いで破産。管財人や農地を貸していた地権者らは人手の確保に追われ、収穫が間に合うか不安を抱える。離職者も発生して地域雇用にも暗い影を落とすなど、実りの秋とは対照的に混迷は深まるばかりだ。

 飯田市中心市街地を望む市西部の山あい。柿がたわわに実る畑で五日昼すぎ、畑を管理していた「かぶちゃんファーム」や干し柿加工の「かぶちゃん農園」(いずれも同市)から解雇された元従業員ら数人が収穫作業に励んでいた。

 両社とも十月に破産手続きに入り、柿畑が放置されることを危惧してボランティアでの収穫を申し出た。「営業や事務をしていて、収穫に関しては初心者だが、何とか手助けしたくて」。農園の元従業員の女性は、柿をもぎとりながら話した。

 市によると、ファームが県南部で管理していた柿畑は地域全体の一割弱に相当する約四十五ヘクタール。地権者は本紙の調べで百五十人超に上る。柿の所有権を持つ破産管財人は地権者に対し、先月二十五日付で「退職した従業員に代わる収穫要員の確保が難航し、大半の農地で収穫のめどが立っていない」と通知。地権者にも収穫を呼び掛け、収穫者に柿を一キロ四十〜五十円で販売する方針も示した。

 ただ、地権者の多くは高齢で農地の管理が難しくなった個人農家。市などによると、収穫を引き受ける業者なども出てきているが、収穫期は終盤に差しかかっている。収穫できなければ鳥獣害の増加や荒廃地化につながる恐れもある。柿の栽培には剪定(せんてい)などの手入れが必要なだけに、市の担当者は「今後だれが畑を管理するのか、現時点では不透明」と懸念する。

 東京商工リサーチによると、長野県南部にあるケフィアの関連会社は約十五社。うち、ファームや農園も含め九社が破産手続き開始決定を受けた。飯田公共職業安定所が把握している関連企業の離職者数は五社の計百四十六人。この中には破産申請をしていない二社も含まれており、職安の担当者は「今後増える可能性もある」と危機感を募らせる。個別対応で離職者の再就職支援をしながら今後の対応を検討するという。

 元従業員の給与の未払い問題も残る。農園は九月、ほぼ全員に当たる約五十人の従業員に八月分の給与を半分しか支払わなかったとして、飯田労働基準監督署から是正勧告を受けた。ファームでも未払いがあり、元従業員からは「今年は猛暑で農作業も大変だった。給料はしっかり払ってほしい」と悲痛な声も上がる。(寺岡葵、伊勢村優樹)

中日新聞 2018年11月6日 朝刊
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2018110602000059.html