店内で包丁を握る柳さん=鹿児島県霧島市隼人町の有馬精肉店で2018年9月13日、林壮一郎撮影
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モヤシやネギと一緒に記者が自宅で調理したあご肉。ニンニクの匂いが食欲をそそる=鹿児島市照国町で2018年9月13日、林壮一郎撮影
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 錦江湾(鹿児島湾)の湾奥部に位置する鹿児島県姶良(あいら)市や霧島市のご当地グルメ「あご肉」をご存じだろうか。豚の頬やコメカミなど顔周りの肉を混ぜ合わせたもので、40年ほど前に地元の精肉店が売り出したのが始まりだという。ステーキや空揚げ、炒めものなど多彩なメニューも人気を呼んでいる。期待を胸に現地を訪ねた。

 歯ごたえがあったり柔らかかったり、独特の食感が癖になりそうだ。頬やコメカミ、ノドなど4種類ほどの肉が混ざっている。かむほどにうまみが染み出し、脂っこくなくてご飯がすすむ。

 訪ねたのは霧島市隼人町の有馬精肉店。店長の柳優子さん(59)によると、店は1958年、柳さんの父の有馬辰世(たつよ)さんが始めた。豚まるごと一頭を解体して販売していたが、辰世さんは74年に事故で亡くなり、母キミさん(80)が店を継いだ。

 当時、地元には小さな精肉店が多く、他の店と違いを出すのが最初の狙いだった。他の店ではほとんど売られていないが味がよく、独特の食感を持つ豚の顔の肉に目をつけた。柔らかい頬肉や弾力あるノド肉などを、ぶつ切りにしたホルモンと一緒にニンニクと塩こしょうで味付けした商品を店に並べた。

 焼くだけでよい手軽さや独特の食感が店の近くの建設現場で働く職人らの間で人気を呼んだ。やがてホルモンを除いて肉だけを集めた商品を開発した。常連客がインパクトの強い「あご肉」という名称を提案し、以来この商品名が定着した。

 霧島市内だけではなく、お隣の姶良市でも地元グルメとして愛されるようになった。姶良市は「あいらアゴ肉」と銘打った専用のPRリーフレットをつくり、ホテルや弁当屋、居酒屋を含む市内の飲食店のメニューを写真入りで紹介している。霧島市ではふるさと納税の返礼品にも採用された。今ではすっかり地元の味として定着した。

 有馬精肉店は長年、店頭に立ち続けたキミさんが4年前に引退し、現在は娘の柳さんと柳さんの長女の2人が店を切り盛りする。「小さな精肉店で売っていた商品が広まって驚いている。これからも多くの人に愛される食材であってほしい」。柳さんは笑顔で語る。【林壮一郎】

メモ

 有馬精肉店の営業は午前10時〜午後6時。不定休。あご肉は1キロ1600円、500グラム820円。霧島、姶良市内だけでなく、JR鹿児島中央駅(鹿児島市)近くの飲食施設「かごっまふるさと屋台村」でも提供する店がある。

毎日新聞 2018年9月24日 10時07分(最終更新 9月24日 11時22分)
https://mainichi.jp/articles/20180924/k00/00e/040/157000c