入居説明会で、京都府職員の発言を聞くウトロ町内会の役員たち(正面の机左から3人)=宇治市伊勢田町・府立城南勤労者福祉会館)
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 在日韓国・朝鮮人が多く住む京都府宇治市伊勢田町のウトロ地区で、新たに整備された市営住宅1期棟への入居が、16日から始まる。第2次世界大戦中、国策による京都飛行場建設に従事した韓国・朝鮮人や、その子孫らが暮らしてきたが、戦後、土地を所有する企業が明け渡しを求めて提訴し、最高裁が2000年に住民の立ち退きを命じた。その後、支援を基に土地を買い取り、住宅整備が進む。立ち退きを求められていた住民や支援者から安堵(ど)の声が上がった。

 市営住宅建設は、国土交通省や京都府、宇治市が一帯の環境改善に向けて策定した基本構想に基づく。支援者たちや韓国政府の出資を得た2財団が計3億1千万円で買い取った地域内の土地で、1期棟(40世帯分)が昨年12月に完成した。今後は、残る世帯向けの2期棟や、周辺道路の整備を進める。

 15日夜、市営住宅近くの府立城南勤労者福祉会館では、住民向けに宇治市が入居説明会を行い、「鍵渡し」を行った。出席した山本春子さん(78)は戦時中、父が飛行場建設に携わり、家族でウトロに来た。建設従事者用の宿舎はトタン屋根にベニヤ板の壁。戦後に亡夫が建て、暮らしてきた自宅は今回の建設用地にあり、解体された。長年の思いがこみ上げ、涙が出たが「町がきれいに新しく変わっていくのはいいこと。(地域外の)近隣の人とも仲良くできると思うから」と話す。整備事業でいったん地域を離れる住民もいるが「ウトロで皆が集まれるのが楽しみ。支援をしてくれた人たちのおかげです」と支援に感謝する。

 一帯は大雨でたびたび浸水被害があり、土地所有を巡る問題から上下水道がいまだに整っていない場所もある。1期棟に入る女性(73)の家は床下浸水を繰り返し、汚水や泥の臭い、衛生面に悩まされてきた。「(00年以降)強制立ち退きの恐怖もあったが『一人じゃないし大丈夫』という自信があった。肝が据わっていたのかも。ようやく安心な場所で、晴れ晴れした気持ちで暮らせる」と、ほっとした表情を見せる。

 市民らの支援団体「ウトロを守る会」は、環境整備の要望や、国内外で地域を巡る人権・歴史問題を訴えるなど長年活動を続ける。代表の田川明子さん(72)は「亡くなった1世の方も多い。時間はかかったが、うれしい」と話す一方で「地域では高齢化が進んでいる。住民の家が無くなっていけば、ウトロの歴史もなかったことになる時期が来るのではないか、とも思う」と危ぶむ。ただ、支援の財団がウトロ地区の記念館開設を目指す動きもあり、今後に語り継ぐ努力も続く。


■ウトロ地区を巡る動き

1940年 京都飛行場建設に着工

 43年ごろ 工事従事者の宿舎開設

 45年 終戦で飛行場建設が中止

 87年 戦後土地所有してきた企業が土地を売却

 89年 土地所有企業が明け渡しを求め京都地裁に提訴

 98年 京都地裁で住民側が敗訴

2000年 最高裁で住民側の敗訴が確定

 07年 国、府、宇治市が住環境改善検討協議会を設立

 同年 韓国国会で30億ウォンの支援可決

 10〜11年 2財団が土地を取得

 14年 国、府、市が基本構想を策定

 16年 市営住宅建設に着工

京都新聞 2018年01月16日 08時34分
http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20180116000012