自身がサンタになった写真が貼られた寄せ書きの前で、ほほ笑む萩原賢蔵さん=荒川区で
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 荒川区南千住の萩原賢蔵さん(91)は、90歳を超えた今も、地元の幼稚園の行事でプレゼントを配る「サンタクロース」だ。貧しかった小さいころのクリスマスに、初めてプレゼントをもらった思い出が、その原動力。子どもたちの笑顔のため、今年も真っ赤な衣装を身にまとう。 (中村真暁)

 萩原さんは関東大震災から三年後の一九二六(大正十五)年、近くを隅田川が流れる区内の汐入地区に生まれた。貧しい時代で、小学校から帰宅すると働く児童も多く、自身も履物の鼻緒を作る家族の仕事を手伝った。

 隅田川を使って貨物を運んでいて、船上で暮らす家庭もあった。そうした家の子どものための福祉施設「隅田川水上隣保館」に、同級生も通っていたという。

 施設はクリスマスには近所の子どもに開放され、袋に入れたお菓子やおもちゃを渡していた。萩原さんも七歳ぐらいのころ、友達と施設を訪れ、両手で抱えるほどの大きな袋をもらった。「普段からプレゼントをもらうなんてことはなかった。貧しいこともあって、それはそれはみな、うれしかった」

 萩原さんは、区立南千住第二幼稚園(南千住八)の依頼を受け、七年ほど続けてサンタになってきた。一人一人に園が用意したプレゼントを手渡し、「どうやってここまで来たの?」「何を食べているの?」などの質問に答える。帰るときは子どもたちがわっと押し寄せ、握手をしようと手を出すという。だから、なるべくゆっくりと歩いて大勢と触れ合ってきた。

 今年は十九日にサンタになる予定。これまでに届いたお礼の寄せ書きを見つめ、「隣保館でプレゼントをもらったときのように、子どもたちにうれしいと思ってもらえれば」と、優しくほほ笑む。

東京新聞 2017年12月17日
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