文藝春秋 2018年10月号
平気で居直り、ウソをつく人たち
昭和の軍人に見る「日本型悪人」の研究  保阪正康
ttp://bunshun.jp/articles/-/8901
 この状況は現代の官僚組織にも当てはまるでしょう。どの政策が国のためになるかではなく、自らの出世の
ため、政治家や上司の顔色を窺って行動することが普通になり、そのことに疑問を持たない。
 佐川氏がいい例です。官邸の顔色を窺い、国会で堂々とウソをつき、資料のメイキングまでしてしまった。
逃げおおせたようにみえますが、昭和の軍人と同じように、必ず不名誉な形で歴史に名を残すことになります。
残酷な言い方かもしれませんが、佐川氏はそのことに気がついていないのです。

 陸大では、教官にゴマをすり、その軍人が偉くなったら引き上げてもらおうとする人を「納豆」と揶揄していた
そうです。ネバネバと上司にくっ付いていく。例えば、東條の「納豆」として有名なのは側近の佐藤賢了でした。
「あいつは陸大時代の納豆だから」と言われながら、どんどん偉くなって最終的には陸軍中将にまでなりました。
 最近では「忖度」という言葉が流行るくらいです。官邸や霞が関のみならず一般の企業でも「納豆」が増えて
いるのではないでしょうか。北方領土返還とか原発輸出とか、首相に気に入られようと現実的でないことを提言
して平気でいる官邸官僚にも似た匂いを感じます。

 最初に指摘したように、平然とウソをつく、白を黒と言いくるめる、失敗すると居直って部下に責任をなすりつけ
る、そして正論をぶつけてくる相手を攻撃する――これが日本型悪人のタイプです。こういう人物はいったん力を
持つようになると押さえるのは至難の業。周囲には、次第に支える人も出てきます。そういった部下には二つの
タイプがある。
 一つは嶋田や牟田口のように積極的に上司を支えるタイプ。もう一つは、触らぬ神に祟りなしと距離を置いて
しまうタイプです。