東京五輪は大半の競技会場での無観客開催が決まり、新型コロナウイルスの感染拡大による宿泊客減で苦境に立つ旅館、ホテルがさらなる打撃を受けている。コロナ収束後の需要増に期待をかける業界からは当座の資金繰りや雇用維持に政府からの追加支援を求める声が上がっている。

「国の対応が遅すぎた。やるもやらないもはっきりしない」。東京都江東区で宿泊施設「Ryokan 結々 Tokyo」を営む古里麻紀子氏は無観客への悔しさをにじませる。提供する7部屋のうち3部屋に五輪関連の予約があったが、全てキャンセルとなる見込みだという。大会組織委員会とスポンサー契約を結んだ大手ホテルに比べて不利な環境にある中で獲得した予約客だった。

旅館のウェブサイトには今も「東京オリンピック会場である有明4会場 他の辰巳エリアが約15分圏内にございます」と残されている。夫の彰康氏と静岡県熱海市から五輪需要が見込まれる現在の場所に移り、2019年10月に開業した。

当初は外国人観光客の増加で好調だったものの、コロナ禍が直撃。「オリンピックがあることで期待や希望があった」が、最後に裏切られた。

日本ホテル協会専務理事の掛江浩一郎氏によると、契約内容によるものの、五輪の無観客開催による国内宿泊客のキャンセルに伴う損失のかなりの部分をホテル側が負担する見込みだという。東京都に発令された緊急事態宣言も痛手で、「もともと厳しい状況だがずっと厳しい。厳しいとしか言いようがない」という。

大手ホテルチェーン、アパホテルも無観客開催で6月末から7月初旬にかけて入った港区内のホテル予約の動きが鈍化した。ただ、五輪に関連した予約数は多くなかったため、キャンセル数が特に上昇したということはないという。元谷芙美子社長がブルームバーグの取材に対し、電子メールで回答した。

宿泊業は新型コロナで大きな影響を受けた。東京商工リサーチが行った「宿泊業の倒産動向」調査によると、 20年の倒産件数は前年比1.5倍増の118件。うち新型コロナの感染拡大が要因となったのは55件で、全体の46.6%を占める。21年も影響は顕著で、7月16日時点で84件が1000万円以上の負債を抱えて経営破たんした。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストはブルームバーグの取材に対し、1都3県と北海道、福島県での無観客開催によって日本全体で1337億円の経済損失が発生するとの見解を示した。

コロナ前の日本は査証発給要件の緩和などにより、外国人観光客が増加を続けていた。政府はビジネス目的も含めた訪日外客数について20年に年間4000万人とする目標を掲げたが、新型コロナの感染拡大で約410万人と前年比約87%減となった。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-20/QWHJM8DWLU6Q01