日米欧の中央銀行グループは9日、中銀が発行するデジタル通貨(CBDC)の共同研究報告書を公表した。現金や民間のデジタル通貨との共存など3つの基本原則を示した。実際に発行する際の基本的な考え方を共有する狙いだ。デジタル通貨の準備で先行する中国を意識し先進国が足並みをそろえて発行を見据えた環境整備を進める。日銀は2021年度に実証実験を始める。

決済のデジタル化が進み暗号資産(仮想通貨)の利用も増え始ている。米フェイスブックはデジタル通貨「リブラ」の発行を計画し、中国はデジタル人民元の実証実験を進めている。先進国にとって自国以外の通貨の流通が増えれば金融政策などで支障が出る恐れがあり、対抗手段として自らデジタル通貨を発行する検討を進めている。

日銀や欧州中央銀行(ECB)、英イングランド銀行など6中銀と国際決済銀行(BIS)が1月に共同研究グループを創設し、CBDCの利点や課題を検討してきた。米連邦準備理事会(FRB)も途中で加わった。

基本原則は(1)現金や民間のデジタル通貨などと共存する(2)中銀の政策目的の達成を支援し、金融の安定を害さない(3)技術革新や効率性を高める――の3つを掲げた。

例えばCBDCが発行されると民間企業や金融機関によるデジタル通貨と競合し、民間の活力を損なう懸念もある。銀行預金からの引き出しが容易になって金融危機時に銀行経営が揺らぎやすくなるといったことも想定され、そうした事態が起きないよう求めるものだ。

CBDCが持つべき特徴もまとめた。現金や預金などとの交換性や現金払いやスマートフォン決済のような決済時の容易さ、取引の即時性や強靱(きょうじん)性などを挙げた。現金のように「いつでも誰でもどこでも安全に低コストで使える」ものになるとの位置づけだ。

報告書では各中銀が実際にCBDCを発行すべきかどうかについての意見は盛り込まなかった。各国で経済・金融環境や社会構造が異なり、一律の形式を定めるのは現実的ではないためだ。ただ発行時の思想や設計がバラバラでは国際決済などで不便さや混乱を招く恐れもあり、先進国間での「共通理解」を擦り合わせた形だ。

CBDCの分野ではデジタル人民元を準備する中国が先行する。2022年の北京冬季五輪ごろの導入をめざし、すでに同国内の複数箇所で実際に利用できる形での実験を重ねている。中国の場合、マネーロンダリング(資金洗浄)や脱税の防止などが発行目的とされるが、中長期的には貿易などでも使えるようにして国際決済でのドル依存を下げる狙いもある。

日銀は21年度の早い時期に実証実験を始める。先進国で実際に発行する際は個人情報保護など規制や技術面での課題も山積みだ。日米欧各国は発行になお慎重な姿勢も残しつつ、出遅れないよう準備は進める構えだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64821650Z01C20A0MM8000/