多くの企業が間違いを犯すが、中には大きな代償を生む間違いがある。

レンタルビデオ企業ブロックバスターは、2000年にネットフリックスを約5000万ドル(約54億円)で買収するチャンスがあったものの、これを辞退した。この金額は当時、ブロックバスターが支払うには高すぎると受け止められていた。もちろん、今考えればそれが誤りであったことは明らかで、ネットフリックスの時価総額は現在約1450億ドル(約15兆8000億円)である一方、ブロックバスターの店舗は世界で残り1つになってしまった。

またヤフーは2001年、グーグルを約10億ドル(当時の為替レートで約1200億円)で買収する機会を逃した。グーグルの現在の時価総額は8000億ドル(約87兆円)を超えている。ヤフーはさらに2008年、マイクロソフトへの440億ドル(当時の為替レートで約4兆5000億円)以上での身売り案を拒否したが、最終的にはベライゾンに40億ドル(同約4500億円)余りで売却された。

一方でアメリカン航空は、30年近く前に犯した過ちの代償を今も払い続けている。同社の間違いによる損失は、先に挙げた例ほど莫大な金額ではないかもしれないが、利益率が低い航空業界では大きな判断ミスだった。

アメリカン航空は1981年、燃料や人員確保のための資金繰りが悪化し、現金が底をついていた。ロバート・クランドール社長は、コストを大幅に削減して同社を根本から作り直そうと試みた。

当時の金利は高かったため、同社は手っ取り早く現金を手に入れる別の方法を思いついた。それは生涯ファーストクラス乗り放題のチケットを25万ドル(当時の為替レートで約5500万円)で販売することだ。

「Aエアパス(AAirpass)」として知られるこのチケットは現在、インフレ調整を加えると57万ドル(約6200万円)の価値がある。1994年の販売終了までに、28人がAエアパスを購入した。

アメリカン航空はすぐに、このチケットの問題点に気が付いた。レストランでの飲み食べ放題などでは通常、一人が飲食できる量に限りがあるため、サービス乱用は起きにくい。しかし、ファーストクラス乗り放題チケットを購入した顧客は、ここぞとばかりに利用を繰り返した。

友人とランチのためにロンドンへ
Aエアパス購入者らの搭乗頻度は、「フリークエントフライヤー」と呼ぶにはけた違いのレベルだった。中には、Aエアパスを1万回も利用した末に、生涯乗り放題だったはずの保有チケットがアメリカン航空によって無効とされた人もいた。

私は、この悪名高きAエアパスの購入者であるスティーブン・ロススタインを取材した。シカゴ出身の元投資銀行家であるロススタインは1週間に4回飛行機を利用し、アメリカン航空からAエアパスの購入を勧められたと語った。

「アメリカン航空からは、Aエアパスを債権のように考えていると言われた。私が同社に金を貸しているようなものだ。同社は金を必要としていた。そのため非常にお得な商品を提示したのだ」(ロススタイン)

信じられないAエアパス所有者の話は他にもある。ジャック・ブルームは年間200万マイル近く飛行機を利用し、友人とのランチのためだけにロンドンやパリに飛んだとも言われている。

しかし2007年、アメリカン航空が社内で損失を生んでいる事業を調査したところ、当然ながらAエアパスは20年以上にわたり利益を生んでいないことが分かった。アメリカン航空は、ブルームとロススタインが「不正行為」を行ったとして、2人の乗り放題パスを無効とした。

ロススタインは「私は、どうしても飛行機でどこかに行かなければいけない事情がある人に、よくマイルをあげた」と説明。「例えばシアトルにいる男性に、父親の葬式に出席するためチケットをあげたことがあるし、多くの人に病気の家族を見舞うためのチケットを与えた。私はこれを慈善活動ではなく、善行と考えている」と語った。

ロススタインは、自身のAエアパスが無効にされてからはアメリカン航空を利用しなくなったという。現在頻繁に利用する航空会社はユナイテッド航空だ。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191215-00031199-forbes-bus_all