マカオやシンガポールでカジノ関係者を取材していると、必ず話題に上るのが「パチンコ」だ。日本がカジノを解禁する可能性が高まっていた2013年暮れ、マカオで会った米系カジノ運営企業の幹部も、筆者にこう話した。

「実は先月も日本を訪れ、妻と一緒にパチンコ店に入ってみたんだ。2人ともパチンコが大好きなんだよ」

幹部はアメリカ人で、高級なスーツに身を包んだ姿はニューヨーク・ウォール街のエリート金融マンを思わせる。パチンコ店はいかにも場違いだが、それほど「パチンコ」は気になる存在なのである。

「確かに、あなたのような外国人にとってパチンコは珍しいかもしれません。でも、パチンコとカジノは全く別物ですよ」

私がそう振っても、あくまで幹部はパチンコにこだわった。

「もちろん、そんなことはわかっている。でも、ギャンブルには違いないさ」

その言葉には、米系に限らず、「日本」という市場への参入を目論む外資系カジノ運営企業の本音が象徴されている。カジノ解禁とは、外資系企業に日本のギャンブル市場を開放することでもあるのだ。

日本のカジノ解禁が外資系カジノ業者を救う
数年内には日本に誕生するカジノは、IR(統合型リゾート施設)の一部に設置される。日本にもリゾート施設を運営する企業は多いが、カジノに関してはノウハウが乏しい。そのためカジノ部門のオペレーションに関しては、マカオやシンガポールで実績を上げている外資系企業に任せる可能性が高い。

米系などのカジノ運営企業はマカオとシンガポールで莫大な利益を上げてきた。ところが、アジアの「カジノブーム」は中国政府の反汚職キャンペーンがきっかけとなって、2015年以降に急速に萎んだ。そこに降って湧いた日本のカジノ解禁は、外資系カジノ運営企業にとってはまさに天佑といえる。

日本版カジノへの参入には、政府から免許を得る必要がある。その免許を得ようと、日本で様々なロビー活動を展開したり、また1兆円規模の投資をする表明する外資系企業も相次いでいる。冒頭で紹介した幹部の会社もその1つだ。

カジノ解禁が話題となっていた2013年頃、投資銀行などから「市場予測」の発表が相次いだ。たとえば、米大手投資銀行「シティ・グループ」が13年7月に出したレポートは、東京、大阪、沖縄の3ヵ所にカジノができた場合を想定し、総収入が「年134億〜150億ドル」(約1.43兆〜1.61兆円)と見積もっている。

カジノの収入源は8割が日本人…
こうした発表に大手メディアが飛びつき、「日本、アジア第2のカジノ市場へ」(2016年12月4日『日本経済新聞』電子版)といった具合にカジノ解禁を煽った。さらには、カジノ推進派も都合よく利用した。

「カジノができれば収入は年1.5兆円。経済効果は7兆円以上」
「外国人観光客がカジノに押し寄せ、景気が大幅に回復する」

そんな具合に、まるで「カジノが日本を救う」とでも言いたげな主張を展開していったのだ。

しかし、レポートを詳細に読むと、推進派が触れようとしない事実が多く見つかる、まず、シティ・グループが最大「150億ドル」と見積もる日本のカジノ収入の内訳だが、外国人観光客からの収入は「33億ドル」に過ぎず、8割近くは日本人客を想定している。つまり、主たる客は外国人ではなく、日本人ということだ。

また、外国人がカジノで負けてくれるという「33億ドル」の試算もかなり甘い。年830万人の外国人がカジノを訪れ、シンガポール並みの1人400ドル(約4万3000円)をスってくれて初めて達成する。

訪日外国人数は2018年、過去最高の3119万人に達したが、その4人に1人以上がカジノを訪れなければ想定の数字には到達しない。しかも、シンガポールの客単価「400ドル」は、中国人などのVIP客があっての数字である。
以下ソース
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67798