自民党総裁選挙で3選を果たした安倍晋三首相は、最長で2021年までの政権運営が可能になった。この任期を全うできれば、20世紀初頭の桂太郎内閣を超えて近代日本における最長政権となる。

 長期政権には大きなメリットがある。政治が安定することによって、結果的に経済が安定的に発展する。また首相自身に対する海外からの信頼感が増し、外交面でよい成果が生まれる点も大きい。現実に安倍首相は、首脳外交において極めて高い存在感を示している。先進7カ国(G7)のなかでは、ドイツのメルケル政権に次いで長期の政権を担っている。

 一方で長期政権の課題も多い。長期であるが故に、その末期はレームダックに陥るリスクがある。また、政権が将来に残す「遺産」(レガシー)は何か、厳しく問われる。安倍首相の最大の課題は、レガシーを残せるようなスケールの大きな政策を掲げることによって、政権の求心力を高めレームダックを回避することにある。

 このような大きな政策課題として、筆者は人工知能(AI)、ビッグデータなど第4次産業革命の要素を凝縮したような都市空間、いわば「スーパー・シティ」を建設することを提案したい。

 ≪第4次産業革命を体現した都市≫

 8月末に中国のアリババの本社を訪問する機会があった。周知のようにアリババは、ジャック・マー氏が19年前にアパートの一室で始めた企業だ。それがいまや日本最大の企業の数倍の企業価値を持ち、アメリカのGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に迫る存在感を持つようになった。

 この会社は、決してネット販売の会社ではない。同社の決済システムであるアリペイは中国で5億人が使用し、中国のキャッシュレス化の象徴だ。またそのスコアリングシステムは、人々の行動をも変えつつあるといわれている。要するに同社は、ビッグデータとAIを組み合わせて社会を変える、まさに第4次産業革命企業だ。

とりわけ印象的だったのは、本社玄関の巨大スクリーンに杭州市の主要道路の自動車運行情報がリアルタイムで表示され、このビッグデータにAIを活用し交通信号の最適化を行っていることだ。結果的に市内の混雑率は2割低下し、極め付きは救急車が出動してから現場に到着するまでの平均時間が、半分に短縮されたという。

 同社は、このプログラムをマレーシアのクアラルンプール市に売却するという。重要なことは、第4次産業革命が都市空間とそのマネジメント全体を変えつつあるという点だ。

 日本でも期待される自動車の自動走行に関し、最近は自動車メーカーと内外のデジタル関連産業との提携が話題になっている。その際、単に自動車独自の技術のみならず、道路情報や近隣施設のビッグデータ整備など、都市環境全体を作り替えることの重要性が認識されねばならない。

 アメリカのグーグルも、トロントで都市全体をグーグル化する都市開発を開始した。日本において、このような新しい社会の姿を集約したいわば「スーパー・シティ」を造ることが必要とされている。いわゆるスマート・シティを目指す試みは既にいくつかあるが、IT活用による省エネなどの部分的な取り組みにとどまるものではなく、より大規模で突破力のある都市空間を政府と民間の力を結集して造るべきだ。

 ≪地方創生の「起爆剤」にも≫

 来年は参議院選挙が控えている。その際、地方創生は間違いなく大きなテーマになろう。地方経済が大きな問題を抱えていることは間違いない。しかし地方創生の政策は、ともすれば財政の非効率な配分、また東京の弱体化を招くような傾向に走りやすい。そうしたなかで、1、2カ所でもこのようなスーパー・シティが実現されれば、地方創生にとっての大きな刺激になろう。

https://www.sankei.com/column/news/181011/clm1810110006-n1.html