ロシアが米国債を大量に売却している。2カ月続けて保有額を大幅に減らし、5月末時点で149億ドル(約1兆6800億円)と3月から約8割減った。米国による対ロ制裁の強化を懸念し、防衛に動いたとみられる。米ロ首脳が16日の会談で融和を演出した一方で、関係改善の難しさが浮き彫りになっている。

米財務省の統計によると、ロシアの米長期債と短期債を合計した保有額は4月に487億ドル、5月に149億ドルだった。3月の961億ドルから2カ月連続で急減し、同省報告書に載る保有額の多い主要国リストから外れた。ロシアメディアによると、保有額は11年ぶりの低い水準。ピークだった2010年と比べると1割弱に縮小した。

ロシアはウクライナ危機を受けて制裁が始まった14年から米国債の保有を徐々に減らしていた。ここに来て大量売却に踏み切った背景には米国が打ち出した厳しい追加制裁がある。

米財務省は4月に16年の米大統領選への介入を理由に新たな制裁を出した。財閥経営者と傘下の企業などを対象に米国内の資産凍結や取引を禁じる内容で、対象に指定されたアルミ大手ルサールなどの株価は軒並み急落。通貨ルーブルも対ドルで一時10%超下落した。

米国債の大量売却は制裁強化で米国債の取引が制限されるのを警戒し、打撃を防ぐ狙いとみられる。ロシアのアルファ銀行チーフエコノミストのナタリア・オルロワ氏は「制裁がロシア国債の取引禁止などに及ぶことが考えられるが、どこまで過熱するかは不明だ」と指摘。制裁強化の程度が予想しにくく、ロシアが予防線をはったとみる。

ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は6月に米国債売却の狙いについて、外貨準備を多角化する政策の一環で、金融、経済、地政学など全てのリスクを考慮したと説明した。金を買い増しており、保有量が10年で10倍に増えたことも明らかにした。脱米国債を進める一方で、地政学リスクによって価値が左右されにくい金の保有でルーブルの信用力を高め、通貨価値を守る狙いとみられる。

米ロ関係は膠着している。フィンランドのヘルシンキで開かれた米ロ首脳会談を受けて、米国内ではプーチン大統領に協調するようなトランプ米大統領の態度に批判が噴出。会談後に米議会幹部からはさらなる対ロ制裁を検討する発言も相次いでおり、ロシアもさらに防衛策を講じる可能性がある。

2018年7月19日 18:38 日本経済新聞
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