「このデバイスでウィンテルに挑戦する。ゲームをプラットフォームにして世界制覇を考えたい。世界初の128ビットを実現したCPUはこの世にはないからだ」

 これは今から約20年前の1999年2月のこと、当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が次世代ゲーム機「プレイステーション2」の概要を発表した時に、記者会見に顔を見せたソニーの出井伸之元社長が満面の笑みを見せて言った言葉である。

 この頃インテルとマイクロソフトはパソコンの世界を牛耳り、ウィンテル王国が世界に君臨していた。そのインテルの最先端CPUですら最高で64ビットだが、ソニー・東芝連合の開発したEmotion Engineと呼ばれるこのCPUは、すべてのデータ処理をワンチップ上で128ビット化したのだ。

 そしてまた、このEmotion Engineを積み込んだPS2を、パソコンに代わるプラットフォームにするとソニーはぶち上げたのだ。確かに、ゲーム機の世界においてPS2は大ヒットを記録し、ゲームの歴史上初めて1億台を超えた。しかしながら、パソコンに代わる新たなプラットフォームを日本企業の力で作るという夢は残念ながら砕け散った。それだけインテルのCPUは使い勝手が良く低コストであった。あらゆるエンジニアが全世界に普及していたウィンテルの思想でモノを作っていた。どうにもならなかったのだ。

次世代自動車の登場で世界制覇も現実味
 それから19年後の2018年に至り、今やソニー半導体の中核はゲーム機用半導体ではなく、CMOSイメージセンサー(人間の眼にあたる画像センサー)に様変わりしており、世界シェアの52%を獲得してぶっちぎりのトップを走っている。

 ソニー半導体はCMOSイメージセンサーをメーンに据えて、2017年度は売上高8500億円を達成し、過去最高レベルとなった。営業利益率は20%前後といわれており、ソニーの中でも稼ぎ頭の一角に座っている。ここ2〜3年はスマホ向けのプレゼンスを向上していくが、2020年頃になれば車載センサーが一気に伸びてくると判断しているのだ。

 ソニーのCMOSイメージセンサーは車載向けという点で圧倒的な差別化を図っている。真っ暗闇に近い状態でも見える視認性と150℃以上の温度にも耐えられる熱耐性を持っている。1億画素のセンサーもすでに作り上げており、DRAMを搭載することで高精細度を上げ、1秒間に1000フレームも見られるという状態を作っている。シリコン基板側から光を入れるという裏面照射、さらにはDRAMまで搭載するという積層技術については他の追随を全く許さない。さらに言えば、最新タイプはISO40万という考えられない超高感度センサーになっているのだ。

 レベル4以降の完全自動運転に移行すれば、従来使われているミリ波や赤外線レーダーに加えてCMOSイメージセンサーが不可欠になる。車載向けは1台に使われる数が多い。どんなに少なく見積もっても16カ所、完璧を目指すならば24カ所に設置しなければ車の周囲を完全にカバーすることはできない。自動車は今後年間1億台が生産されるわけだから、16億〜24億個のCMOSイメージセンサーが必要になる。まさに次世代自動車の登場はソニーにすさまじい追い風をもたらすのである。

 そう、ソニーが半導体デバイスで世界制覇するという1999年当時の夢は決して終わっていなかったのだ。すなわち、Emotion Engineは世界のプラットフォームにならなかったが、IoT時代を迎えてソニーの黄金武器であるCMOSイメージセンサーが、すべての基礎となる社会インフラを構築するという再びの夢が蘇ってきたのだといえよう。

 ソニー半導体主力の熊本工場には1万点の設備があるが、ここにはすべて自社のCMOSイメージセンサーを取り付けて生産管理をしている。いわば、IoT時代における生産方式の先出しをやっている。ソニーにとって重要なのは、先頭に立って先にある風景を見に行くこと、これがすべてなのだ。
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