英国を拠点とするスポーツメディア企業パフォーム・グループは、北米でのボクシング人気の復活に賭けて10億ドル(約1100億円)を投じようとしている。同社のサイモン・デンヤー最高経営責任者(CEO)は「米国のボクシング市場は自ら首を絞めている。魅力的なイベントはどれも(視聴ごとに課金される)PPV(ペイパービュー)でしか視聴できず、その料金は100ドル前後と高額だ。この状況は打破しなければならない。全てを見直す必要がある」と意気込んだ。

 ◆一流集め興行運営

 パフォームは、英国のマッチルーム・ボクシングと8年間のパートナーシップ契約を締結。合弁会社マッチルーム・ボクシングUSAを立ち上げて、米国でのボクシング興行を企画運営する。10億ドルの投資は、マッチルーム・ボクシングUSAが一流ボクサーを集め、最高の会場を確保し、現地またはテレビでのボクシング観戦体験を変えるための軍資金になる。

 そして、パフォームにとって何よりも重要なのは、米国での試合を、同社が手掛ける動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」のプラットフォームで放送するということだ。同社は今夏から米国でDAZNサービスを開始する予定で、ボクシングを米国市場への入り口にしたい考えだ。

 ここ数十年、人気が低下傾向にある米国のボクシング界において、この投資は相当の規模である。かつてはプロスポーツや文化の重要な位置を占めていたボクシングだが、近年ではビッグネームによる試合の減少や観戦料の上昇などもあって人気が衰えている。デンヤーCEOによると、注目の試合をペイパービューでしか放送しない同業界の古いビジネスモデルが衰退の一因である。

 ◆ESPN元社長招く

 マッチルーム・ボクシングUSAは米国で年間16興行を計画しているが、いずれもペイパービューにはしない。そして前座試合を充実させる予定で、これは現地観戦の魅力を高めるための戦略である。パフォームはDAZNの米国進出の準備を進める中で、米スポーツ専門局ESPNの元社長であるジョン・スキッパー氏をエグゼクティブ・チェアマンに迎えた。

 パフォームが2016年に日本でDAZNサービスを提供した際は、できるだけ早く放映権を買い占めるという戦略を使った。それから2年のうちに、日本のサッカー、プロ野球、メジャーリーグ(MLB)、ナショナル・フットボールリーグ(NFL)、欧州の主要サッカーリーグと欧州サッカー連盟(UEFA)チャンピオンズリーグの放映権を獲得。日本では約30億ドルの投資でスポーツ市場全体の支配権を得ることができた。

 しかし、米国の場合、主要リーグの放映権が既に中長期的な契約で確定しているため、この方法は使えない。そこでパフォームは一つのスポーツに的を絞る必要があった。デンヤーCEOは「ボクシングは悪い意味で非常に目立っていた。われわれは米国のボクシングの拠点になれるかもしれない。それが、現時点でわれわれにできることだ」と述べた。(ブルームバーグ Eben Novy−Williams)
2018.6.25 05:00
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180625/mcb1806250500007-n1.htm