ガムをかんでいる人が減った、と感じることはないだろうか。統計をみると、ガムは販売不振が止まらず、売り上げがピークからほぼ半減しているのだ。背景を探ると、さまざまな競合の台頭で存在感が薄れている現状が見えてくる。終戦直後のブームをきっかけに日本人に長年親しまれてきたガム。活路はあるだろうか。【増田博樹/統合デジタル取材センター】

ある東京都内のコンビニ。ガムなどのコーナーで、最も目立つ目線の位置にあるのはグミキャンディーだ。その下にはミントタブレット(錠菓)がずらりと並ぶ。ガムはさらに下の足元の最下段で、ガム購入が目的でなければ見落としそう。「(グミなど袋状の)ぶらさげるタイプ、(ガムなどの)置くタイプと商品の形状の関係もありますが、グミは伸びていますから」(コンビニ担当者)


菓子類の中でも、ガムの落ち込みは突出している
 ガムの業界団体「日本チューインガム協会」(東京都港区)によると、2017年のガムの小売金額は1005億円。ここ十数年、減少傾向に歯止めがかからず、ピークの04年比で47%減とほぼ半分の水準に落ち込んだ。1000億円の大台割れとなれば1987年以来となり昭和までさかのぼる。

 少子化だから菓子類全体が厳しい、というわけではない。業界団体「全日本菓子協会」(同)によると、17年に「チョコレート」は35%、「スナック菓子」は19%、それぞれ04年比で増えている。11あるジャンルの合計を見ても同約8%増とプラスだ。ガム以外で減少が目立つ「せんべい」でも10%程度にとどまっている。

グミ、タブレット、コーヒー…そしてスマホも? 居並ぶ競合商品
 「ガムが嫌だというよりは、なんとなく買わなくなったと感じている方が多い」と話すのは、国内最大手ロッテの広報担当者。口の寂しさの解消、眠気覚まし、気分転換、口臭対策とさまざまな用途で愛されてきたが、どうして存在感が薄れてしまったのか。

 前述のコンビニの例にあるグミやタブレットなどの「代替品」が伸びたことに加え、最近意識されているのが同じコンビニのカウンターコーヒーだ。ガムは「ついで買い」を誘うために店のレジ周りに置かれることも多いが、これはカウンターコーヒーも同じ。1杯100円程度で、仕事中や運転中の気分転換や眠気覚ましにと、値段や利用目的もガムと激しく競合する。

 13年1月にセブン−イレブンが始めたカウンターコーヒーは、今や各チェーンに広がる。富士経済によれば、今年のカウンターコーヒーの売り上げは2650億円と13年の約2・5倍に伸びる見込みだ。ガムとは逆に右肩上がりが続く。

 口臭対策でも、ミントタブレットのほかに、オフィスなどで昼食後に歯磨きをする人も増えた。ロッテ担当者は「(過去にガムをよくかんでいた)団塊世代が大量退職して人と会う機会が少なくなり、口臭対策への利用が減ったことも大きい」とみている。

 意外な「敵」がスマートフォンだ。はっきりとしたデータはないが、日本でスマホが急拡大した11〜14年にかけてガムの減少幅が大きく、ひまつぶしの道具がガムからスマホに移ったのではないかという見方もある。「クロレッツ」などで知られる国内2位のモンデリーズ・ジャパンの担当者は「データを見るとガムは移動中にかむケースが多い。スマホも移動中に使われることが多く、両者の関係には注目している」と語る。

メーカー 歯の健康やターゲット年代を意識

人気アニメ「ルパン三世」をパッケージにあしらった「クロレッツ」=モンデリーズ・ジャパン提供
 止まらない不振にメーカーはどう対応しているのか。前面に出すのが「歯の健康」だ。ロッテは歯の再石灰化を強める「キシリトール」シリーズで、ガムの中心部分にキシリトールパウダーを配合した新商品を5月下旬に発売。ネット上では「噛(か)むこと研究室」と題したサイトを作り、かむメリットをアピールしている。モンデリーズは3月、「リカルデント」の包装をリニューアル。虫歯抑制成分の表記を大きな文字で目立つようにした。
https://mainichi.jp/articles/20180617/k00/00m/040/126000c