高齢ドライバーの認知機能検査を強化した改正道路交通法施行から約1年間で、認知症の恐れがあると判定された約5万7千人の4割が免許の自主返納などで運転をやめていたことが7日、警察庁のまとめ(暫定値)で分かった。このうち認知症の診断を受けて免許取り消しや停止となった人は1892人に上り、2016年1年間の3倍となった。

検査の強化や高齢ドライバーによる事故の報道などを受け、自主的にハンドルを握るのをやめる高齢者が増えているとみられる。検査強化の効果には限界もあり、認知症以外の機能低下の研究、車以外の交通手段の確保など、なお課題は多い。

17年3月12日施行の改正道交法で、75歳以上が免許更新時などに受ける認知機能検査で「認知症の恐れがある」(第1分類)と判定された場合、医師の診断を受けることが義務になった。

警察庁が施行から今年3月末までの状況を集計したところ、検査を受けた約210万人のうち5万7099人が第1分類だった。

第1分類と判定された後、医師の診断を受ける前に運転免許を自主返納した人は1万6115人、更新せずに免許が失効した人は4517人。医師の診断を敬遠して運転を断念した人が多いとみられ、警察庁の担当者は「検査が自分の認知機能を把握するきっかけになっている」とみる。

第1分類の判定を受けた人のうち、医師の診断を受けたのは1万6470人で、認知症と診断された1836人が免許取り消し、56人が免許停止となった。このほか、診断で「今後認知症になる恐れがある」などとされ、免許は継続できるものの一定期間後に診断書を提出しなければならない人が9563人いた。

法改正前は第1分類でも違反をしていなければ医師の診断は必要なかった。16年のデータをみると、第1分類と判定された約5万1千人のうち医師を受診した人は1934人で、免許の取り消し・停止は597人。改正により、これまで見過ごされていた認知症のドライバーが把握されるようになったといえる。

自主返納の制度は1998年に導入され、その後、運転経歴証明書が導入され本人確認書類として使えるようになった。返納した人への優遇措置も自治体や企業の間で広がっている。こうした動きを背景に返納は急増。17年1年間に75歳以上で返納した人は約25万4千人で、前年の1.5倍になった。

ただ、認知機能検査の強化の成果は限定的だ。集計によると、第1分類は受検者全体の2.7%にすぎない。「認知機能低下の恐れ」(第2分類)と判定されても、講習を受ければ原則3年間運転できる。こうした高齢者が事故を起こさないよう、フォローする仕組みづくりが課題だ。

また、車の運転は認知機能検査では測れない視野や身体能力なども影響する。「認知機能と運転技術は必ずしも同じではない。高齢者の免許更新時には実車を使った実技と学科試験を行うべきだ」(順天堂大の新井平伊教授)との指摘もある。

認知症と診断されない高齢者への目配りについては警察庁も重くみている。加齢による機能低下と事故との関連を分析するほか、自動ブレーキ搭載車に限った「限定免許」の導入可否の検討などを進めている。
2018/6/7 10:25
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31471920X00C18A6MM0000/