DIAMOND online 2018.5.20
http://diamond.jp/articles/-/170355

 ダイヤモンド・オンラインに寄稿をすると、同ウェブサイトが提携する配信先の各メディアには、
少なくないコメントが寄せられる。それらを眺めてみると、国民一人ひとりが着実に発信力や存在感を増しており、
メディアとの関わりを通じ、国民が「第5の権力」として君臨する前兆を強く感じる。日本の民主主義の
質を高める上では、それは歓迎すべきことのように思う。

 筆者は寄稿した記事に対して、どのようなリアクションがあるのかをしばしば確認している。
これは民間企業が自社の商品や広告などに対して、どのようなリアクションが起きたのかを把握する
マーケティング調査の位置付けに近いかもしれない。

 コメント欄に表れる賛否の傾向も見るが、それ以上に注目するのは、批判意見の中に存在する合理的な意見や
面白い切り口である。逆に根拠のない人格批判などのコメント部分は受け流す努力をしている。
精神的なダメージから自らを守ることもさることながら、建設的に論考を深堀りすることができないためである。


(中略)


コミュニティには人と金が集まる

 ビジネスにおいても優良なコミュニティの構築が重要視されるようになって来た。分かりやすい例だと、
プロ野球のようなスポーツの世界や音楽業界などでは、ファンコミュニティの強さがビジネスに直結する。
人は自らが所属するコミュニティの中で、時間とお金を消費するからである。

 良質なコミュニティを構築することは、新聞社であっても可能なはずだ。実際に、プロ野球チームが
大手新聞社傘下にあることは、象徴的だ。また、経済系のニュースを利用者間で共有するウェブサイト
「NewsPicks」では、有名人や有識者を含めた読者が、新聞社や雑誌社が提供する様々な記事に対して
コメントしている。そのコメントが記事への新たな視点を加えるとともに、コミュニティを形成することで、
社会的な影響力とともにビジネスをも構築、拡大している。

 この一連の流れに鑑みると、マスメディアについても読者とのコミュニティ構築、ないしはコミュニケーションの
深化は不可避となり、今後その動きに拍車がかかることが予想される。


コミュニティが読者に力を与える

「他人と政治の話はするな」と言われることがある。政治的な話は敬遠されがちで、その結果、日本国民は
政治行政に関する情報やその評価をマスメディアに依存し、第4の権力の影響力を絶大なものにしたのでは
ないだろうか。

 昨今、「メディアにも監視が必要だ」という声が強まっているが、今後、マスメディアと読者・視聴者が
作り出していくコミュニティには、自ずと監視機能も備わってくるのではないかと期待している。

 しかし、もし、その監視という役割を国民が担うのであれば、単にマスメディアを批判することではなく、
建設的かつ論理的に是々非々の主張を戦わせるべきではないかと思う。メディアに対して正しさを求めるので
あれば、読者自らもメディアに対して正しくあらねばならない。多くの場合、バッシングではなく
対話こそが世の中へ好影響を与えるからだ。

 残念ながら、現在は多くのメディアのコメント欄では、建設的なコメントとそうでない罵声のようなもの、
もしくはマウンティングのような類の声が一緒くたにされてしまっている。コミュニティが荒れてしまうと、
建設的な人々は次第にその距離を置き、結果としてコミュニティの価値は下がる。

 過去に大衆と呼ばれた国民が、メディアとの関わりの中でいずれ第5の権力となり、日本の民主主義は
さらに成熟していく。両者が協力して良質なコミュニティの構築を目指すことが、未来の国民、
メディアそれぞれに大きな力を与え、より良い社会を創るのではないかと思う。

(株式会社ホルグ代表取締役社長 加藤年紀)