スマートフォン(スマホ)にも搭載され、広く知られる個人認証技術「指紋認証」。しかし、認識精度に限界があり、誤認や偽造などの懸念も指摘される。生体認証システムのディー・ディー・エス(DDS)と東京大学は指の汗が出る穴に着目し、精度を10倍以上高めることに成功した。読み取るセンサーのコストなど課題も残るが、個人認証の新たな手段として注目されそうだ。

「従来の指紋認証は精度に限界がある。決済など様々な場面でスマホが使われるなか、より簡単で精度の高い個人認証技術が必要だ」。東京大学大学院の梅崎太造特任教授は、新たな指紋認証手法を開発した狙いを強調する。

現在の一般的な指紋認証は、複数の隆起した線(隆線)が集まって模様になった渦状紋などの「第1次特徴」と、線の分岐点や端点といった「第2次特徴」で個人を判別する。技術は確立されており、実績もある。

■誤認や偽造も

しかし、スマホのセンサーのように読み取る面積が小さくなると、捉えられる特徴点が少なくなる。他人の指紋を登録者のものと誤って認識したり、偽造した指紋で認証を突破されたりといった懸念が指摘されてきた。

入室用の指紋認証機器といった大きなセンサーを使用する指紋認証では無作為に選んだ人がロックを解除できる確率は100万分の1程度とされる。一方、スマホでは5万分の1程度に低下するという。

実際に米国のミシガン州立大学の研究グループは、指紋をインクジェットプリンターで偽造してスマホの認証を突破できると報告している。また、他人の指を本人のものと誤認してしまいスマホのロックを突破される危険性も報告されている。

DDSと東大が開発した技術は従来の2つの特徴に加えて、汗が出るための小さな穴である「汗孔(かんこう)」を“第3次特徴”として利用する。汗孔は個人によって位置関係が異なる。この汗孔同士の位置関係や線と汗孔の位置関係を判定基準に加えることで、精度を10倍以上に高めることができるという。

汗孔は隆線の中に数多く存在しており、スマホに搭載する小さなセンサーでも多くの特徴を捉えることが可能だ。ただ、現在の主流の静電容量式センサーでは十分な解像度がなく、小さな汗孔を検知できない。

このため、DDSは新たなセンサーを開発した。薄いガラス板とイメージセンサー、発光ダイオード(LED)を組み合わせており、指の表面に光を当てて浸透率や反射率を利用して微細な構造を読み取る。

■価格下げ課題

検出部の大きさは縦6.6ミリメートル×横4.8ミリで厚さも約0.6ミリと小さい。従来のセンサーは解像度が500ppi(1インチあたりの画素数)程度だったが、新しいセンサーでは3000ppiまで高められるという。読み取った汗孔の位置関係から個人を認証できるソフトウエアも梅崎氏とDDSが開発した。

スマホに搭載される一般的なセンサーの価格は100〜1000円程度とされる。新開発のセンサーはまだスマホに搭載できるほど安くはないが、今後は量産による原価低減で既存センサーと同程度まで下げられるとみる。スマホメーカーの採用を目指す。
以下ソース
2018/4/19 6:30
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29549890Y8A410C1XY0000/